福島アンテナ
「次世代につなぐ橋渡しに」 福島出身 渡辺あいさん 26
福島県内の伝統芸能や文化財の存続に欠かせない用具修復業の現場で、頼もしい担い手が育ち始めた。二本松市の神楽工房はしもとの門をたたいた渡辺あいさん(26)は、全国でも珍しい修復職人として技を磨いている。東京からUターン後、地域の伝統を支える仕事に引かれ、受け継ぐ若手がほとんどいない世界に飛び込んだ。学生時代に培った色彩感覚を生かし、破損した県内外の神楽面や獅子頭などに再び命を吹き込んでいる。「次の世代につなぐ橋渡しをしたい」。文化継承への思いを筆先に込める。
渡辺さんの手が繊細に動き、手にした神楽面の口元に朱色を乗せる。面に色が宿り、魂が吹き込まれる。「確かな技術を身に付けたい」。師匠の橋本篤さん(44)に見守られ日々研さんに励む。
福島市出身。福島西高デザイン科学科を卒業後、仙台市の花の専門学校へ進学し、卒業後は上京した。百貨店の装花や雑誌撮影の背景装飾に携わったが、祖母の体調不良を機に帰郷した。
「地元を離れて初めて良さに気付いた。戻るなら福島でしかできない仕事がしたい」。思いがかなう職場を探す中、文化財や伝統工芸に関わる神楽工房はしもとを知った。約130年続く橋本仏具彫刻店から修復業に特化して設立され、文化財の補修に対応する全国でも数少ない工房だ。美術に関わってきた中、脈々と受け継がれてきた貴重な遺産を手直しし、次代へつなぐ考え方に引かれた。
求人募集はなく、自ら電話をかけ、熱意を伝えた。一度は断られたが、後日、履歴書を送ってほしいとの連絡を受けた。思わぬ申し出を受けた橋本さんが考え直してくれた。橋本さんは「自分から扉をたたく人は少ない。その姿勢が印象に残った」と振り返る。週1度のアルバイトから始め、2024(令和6)年に正社員となった。
修復作業は欠損部分の補修や色の調合、金箔[きんぱく]の貼り直しなど多岐にわたる。文化財に登録されている神楽面や獅子頭をはじめ、山車や社額など地域の歴史を伝える道具と向き合う。福島西高で育んだ感覚を生かし、道具本来の色味に合わせた配色を得意とする。作業時は心身を研ぎ澄ます。面の彩色は一発勝負。筆の運びや墨の濃淡がわずかに違うと表情は変わる。失敗が許されない。迷った時はあえて筆を置き、翌日に持ち越すこともある。
初めて大きな仕事を任されたのは正社員になったばかりの2024年4月。会津美里町の神社から依頼された太鼓台の車輪修復だった。車輪は大きくひずんでいた。試行錯誤を重ねて満足のゆく仕上がりになった。納品時、保存会関係者から「とてもきれいになった」と喜びの声を聞き、仕事を続ける覚悟が固まった。
修復業の道に入り2年が過ぎた。千葉県柏市の由緒ある神社「神明社」の神楽面修復を任されるなど着実に力を付けているが、研ぎや削り、筆遣いの修業を重ねる毎日だ。文化は地域の根幹になっていると考えている。若手も女性も少ない世界だからこそ、自身の挑戦が後に続く人の道しるべになればと願う。地域に根差した祭礼文化を未来へつなぐため、今日も静かに筆を執る。(20260601)
【写真説明】 千葉県柏市の神明社の神楽で使われる面を修復する渡辺さん(左)と作業を見守る橋本さん


