ドアを開いた人たち
石川 丈博さん(会津坂下町出身。2020年8月にUターン。元証券マン)
■仕事から家族へ
「当面、好調な相場が期待されます」
私をテレビニュースに釘付けにしたのは、証券会社時代の同期でした。30代で支店長になっていました。「俺だって」本店営業部や東京法人部を歴任し新規事業も立ち上げた。辞めて会津に戻っていなければ…。むなしくて言葉を飲み込みました。
「この先輩も大変そうだね」。妻の声で私は我に返りました。4つ下の妻とは同じ会社で出会いました。「私はいまのパパの方がいいと思うよ」。会津坂下町の実家にUターンして5年。生活の中心が仕事から家族へと変化していました。
私は隣町の農業法人に就職し、農作業や六次化商品の販売など、それなりのやりがいも感じていました。「そのうち農業は株式会社でするようになるぞ」。亡くなった父の口癖でした。
■「AIじゃねんだよ」
「へい!タケミン!。地域おこしのやり方教えて!」。中学の同級生・江川が勝手に家の中まで入ってきて叫びました。田舎の人はなんでこんなに声が大きいんだろう。迷惑なやつだな。そこまで思ったとき、私が新卒の頃、「石川は声が大きくていいな」と会社の上司に褒められたのを思い出して可笑しくなりました。
「俺はお前のAIじゃねんだよ。何だよ」。役場隣の美容室から紹介されたというその物件は、会津坂下駅前、築100年近い食堂跡でした。「子供たちに面白い町を残したいんだよな」。江川は、この古びた空き店舗を借りて地域おこし活動をしたいから、私に力を貸せというのです。近年、空き家や空き店舗が増えて地域の課題になっていました。
「どうせ、まとまんねえべ」。どこからか聞こえてきた嘲笑が、私をやる気にさせました。食堂跡をリノベーションしてレンタルスペースとして蘇らせる。創業支援や集客イベントの開催で会津坂下駅前に賑わいを創り出す。一晩で事業計画書を書き上げました。
町で住宅設備会社を営む江川が協力者を募り、構想から3か月で「レンタルスペースunlock」はでき上がりました。仲間と地域の力を見せつけられた思いがしました。
■「ばんげさ、はっこう!」
レンタルスペースを始めて1年、農業法人の仕事を定時に終えて帰宅すると、週末に開催した「地酒飲み比べ会」の様子が夕方の情報番組で紹介されていました。「ばんげさ、はっこう!」。妻と息子が、テレビに映る私の真似をして笑います。私が「そのうち県知事だって視察に来るぞ」とうそぶくと、「来るわけないよ」と息子がさらに笑うので抱き寄せて言いました。
「見てろよ」
どこにいても挑戦はできる。私はそう思います。(石川さんのストーリー終わり)(20260625)
【写真説明】「レンタルスペースunlock」屋上で共同経営者の江川さんんと打ち合わせ

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