福島便り
福島県三春町で約80年にわたり営業していた文房具店「でぐら」が、店主佐久間光男さん(81)の急逝で休業することになった。店内には絵の具や筆箱、事業所で使う各種事務用品が所狭しと並ぶ。子どもが喜ぶ塗り絵や紙飛行機、カードゲームなどもあり、「何でもそろう」と地域に愛された店だった。後継者のいなかった佐久間さんのため、休業する前に親類や知人が4月2日から最後のセールを繰り広げる。「お世話になった皆さまへ」。感謝を込めて在庫を販売する。
城下町・三春町中心部にある「でぐら」は、蔵の屋根が道路にはみ出ているため、その名が付けられたといわれている。薬店やたばこ店などを経て約80年前に文房具店になった。
1980(昭和55)年ごろに、佐久間さんが両親から店舗を受け継ぎ、地域の小中学校や高校などの児童生徒に販売してきた。モットーは「お客さんの小さな要望でも応える」。色や太さが豊富なペンや、最近、あまり使わなくなったワープロのインク…。あらゆる客の注文に対応できるよう店舗裏の蔵は在庫でいっぱいだった。
佐久間さんは1月に体調を崩し、入院。福島市に住むおいの池谷英樹さん(56)ら親族で話し合い、店の商品を少しでも販売し、佐久間さんの入院代などに充てようと、自分たちで販売することを決めた。今月からほそぼそとセールを始めると、口コミで1人、2人と客が増え始めた。懐かしの文房具を手にしながら、何時間も滞在する人もいた。
文房具店内には化粧品売り場もあり、担当する宮城千秋さん(61)、柳沼裕美さん(45)もセールを手伝う予定だ。「光男さんはどこに何があるか頭の中に入っていた。計算も自分でやり、おまけするところも人気だった」と振り返る。
佐久間さんは容体が急変し、3月17日に亡くなった。池谷さん、宮城さん、柳沼さんは「親しまれた人たちのため、おじさんの思いのこもった商品を買ってもらおう」と最終処分セールを企画。秋田や宮城などの親族らが集結し、店舗に立つ。
セールは4月2日から6日まで。池谷さんは「店に立ち、この店が地域に親しまれていることが分かった。さらに多くの人に足を運んで、文房具を手に取ってほしい」と願っている。
店舗住所は三春町字八幡町74。時間は午前10時から午後6時30分まで。