【真相深層】食味ランキングで福島県産米2年連続「特A」逃す ブランド力低下に危機感 高温耐性品種の開発出遅れ

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【真相深層】食味ランキングで福島県産米2年連続「特A」逃す ブランド力低下に危機感 高温耐性品種の開発出遅れ

福島便り


日本穀物検定協会のコメの食味ランキングで、福島県産米が初めて2年連続で最上位の「特A」を逃し、県内の農業関係者は米どころとしてのブランド力低下などに危機感を募らせている。近年の猛暑が品質に影響を与えているとみられる一方、全国的には暑さに強い品種が既に普及し特Aを獲得するケースが目立つ。現時点で県のオリジナル米に高温耐性に重点を置いて開発された品種はない。県は開発を進め数年後の品種登録を目指しているが、関係者からは県の対応の遅さなどを指摘する声が上がっている。■東北で福島県のみ
県産米の年別の特Aの獲得数の推移は【グラフ】の通り。2024(令和6)年産で特Aを逃したのは東北6県で福島県のみ。東北全体で特Aは前年比で2銘柄増え9銘柄だった。高評価を受けた品種は高温耐性品種が目立った。このうち山形県のオリジナル品種「つや姫」は15年連続の特A、同じく山形県が開発した高温耐性のオリジナル品種「雪若丸」も特Aに輝いている。
県内で2010(平成22)年にコメの高温障害が深刻化した。おおむね9割を超えていた県産米の1等米比率が74・8%まで低下。高温耐性品種の必要性が高まったが、当時は後にオリジナル高級米「福、笑い」となる新品種の開発が既に始まっていた。
中通りのJAで役員を務めた経験があり、米作りをする70代男性は、新品種の開発に10年以上を要する点を挙げ、「温暖化は全国で進んでおり条件は一緒。福島県は見通しが甘く、出遅れたと言わざるを得ない」と指摘する。■数年単位の時間必要
会津産コシヒカリは2022年産まで10年連続で特Aを獲得し、JA会津よつばは米どころをアピールしてきた。同JAの担当者は「近年は暑さが全く違う。昔からある品種が暑さに耐えられなくなっている」と指摘する。高温耐性のある品種が出回るまでには数年単位の時間を要するとみられ「追肥や水管理など基本技術の徹底を周知するしかない」と話す。
県は高温に強く、倒れにくい水稲品種の開発を進めている。県によると、今年度は栽培特性や食味の評価などを踏まえ、11系統のうち関係者の評価が特に高かった1系統を選抜。新年度から県内1カ所、2026年度から複数箇所で試験栽培を行う。地域での栽培適性などを見極めながら数年後の品種登録を目指す。
作物学や栽培学などが専門で福島大食農学類の新田洋司教授は、「高温耐性があり、耐倒伏性を有する品種の開発は有効だ。特に水稲は地域への適合性が強く県内で育成した品種は有効性が高いはず」と期待する。県は「(新品種が)福島県の顔として販売開始され、高い評価を得られるよう開発を急ぎたい」とする。■出品方法にも課題
県産米の食味ランキングへの出品方法の改善を求める指摘も出ている。
県内の農業団体幹部の60代男性によると、県産米を出品する際のサンプル作りは、数年前までJAグループ福島が中心となって取り組んでいた。ここ数年は県主導で実施しているという。JAが担っていた時は、コメを厳選し、出品していたという。
男性は「他の地域も都道府県が主体だが、サンプル米の厳選などを徹底していると聞いている」とした上で、「県産米の市場価値にも影響するので福島県は結果にこだわってほしい」と訴える。※食味ランキング
日本穀物検定協会が専門の評価員による官能試験を行い、基準米との比較で「外観」「香り」「味」「粘り」「硬さ」「総合評価」を評価した結果に基づき「特A」「A」「A’」「B」「B’」の5段階にランク付けする。出品の条件は各都道府県がその地域で普及させるべきと定めた「奨励品種」で作付面積千ヘクタール以上か収穫量5千トン以上となっている。