福島便り
新年度を迎えた1日、福島県内各地の自治体や企業に新たな戦力が加わった。進学などで、いったんは離れた古里に思いを寄せ、Uターンした若者も少なくない。「復興の役に立ちたい」「生まれ育ったまちの力になる」―。みずみずしい言葉の端々に強い決意がにじむ。度重なる自然災害に見舞われた県土の豊かな未来に向け、新たな一歩を踏み出した。■町復興の最前線に
双葉町に就職
木幡穣清さん(22)
東京電力福島第1原発事故に伴い避難区域が設定された双葉町は、復興の最前線に立つ12人を迎え入れた。「古里の力になる」。伊沢史朗町長から辞令を受けた木幡穣[しげ]清[きよ]さん(22)は真っすぐなまなざしを向けた。東日本大震災と原発事故から14年。当時、ランドセルを背負っていた少年が頼もしい姿で古里に戻ってきた。
双葉北小2年生の時に被災した。避難先のいわき市で、同じ境遇にある町民の温かさに触れた。広野町のふたば未来学園高に進むと、探究学習で自ら古里への学びを深めた。
町職員を志す転機の一つは市町村対抗県縦断駅伝競走大会(ふくしま駅伝)だった。神田外語大に在学中、町チームのメンバーに選ばれた。選手がそろわずにチームとして棄権となったが、心を一つに出場を目指してきた過程が強く胸に残った。
3月から、町内に再び住み始めた。建物が次々と解体され、変わり果てた町並みに寂しさを抱く。町内居住人口は約180人と復興はまだまだ道半ばだ。一方、ホープツーリズムなどで町を訪れる外国人は増加傾向にある。大学時代に学んだ英語も生かし、町に関わる幅広い世代の人と交流を深めていきたい考えだ。「『チーム双葉』の一員として新たなまちづくりに積極的に関わっていきたい」。古里発展に走り続けると誓った。■地元農家支える決意
JA会津よつば入組
山口秀真さん(24)
JA会津よつば(本店・会津若松市)に入組した山口秀真さん(24)は、農産物の風評払拭や2月の記録的な大雪で打撃を受けた会津地方の農家を支える決意を新たにした。新入職員12人を代表し、誓いの言葉を述べた。
会津若松市北会津町出身。今春、帝京大大学院を卒業した。農業を営む祖父母と同居し、幼少期から農業が身近にあった。労力の負担や後継者不足など、生産を取り巻く社会課題を肌で感じてきたからこそ、農家に寄り添える仕事を選んだ。共働きの両親に代わり、普段から家で面倒を見てくれたのも祖父母だった。2024(令和6)年秋に祖母を亡くし、残された祖父を思うと、地元就職の考えも一段と強まった。
原発事故の発生から14年が経過しても福島県の主要品目であるコメやモモ、牛肉などの価格は発災前の水準に戻っていない。「安全性を発信していきたい」と誓う。
大雪の影響で、市内では農業用パイプハウスの倒壊が500件以上確認されており、農家の営農再開をサポートする。フルーツ狩りの手配などに当たる農業観光分野に従事する。「会津のおいしい農作物を一人でも多くの人に知ってもらいたい」と、魅力を広める一翼を担う。