福島便り
トランプ米大統領は2日、「相互関税」の導入を発表した。全ての国・地域に一律10%の追加関税を導入し、貿易赤字などの状況を踏まえて国・地域別に上乗せする。日本には計24%、中国は34%、欧州連合(EU)は20%となる。■輸出影響懸念対応急ぐ
米国相互関税
日本酒、独自性売り込み
トランプ米大統領が貿易相手国に課す「相互関税」の詳細が明らかになった3日、福島県民からは困惑や先行きを心配する声が上がった。トランプ氏は日本のコメに強く言及し、県産米を独自ルートで海外展開する業者は販路先の変更を急ぐ。追加関税を発動した自動車産業に加え、食品などあらゆる分野に影響が波及しかねず、県民は地域経済への打撃を危惧する。
米国に年間80トンほどの県産米を輸出している福島市のLAB社長の高橋義和さん(48)は「関税による値上がりは避けられず、現地の方に受け入れられないだろう」と分析する。取引先は日系のスーパーやレストランが中心で、現地の相場価格は5キロ当たり、日本円にして5千円程度。今後は6千~6500円前後になると見込む。取引のリスクを分散するため、メキシコを主軸に置いた輸出先の転換を進めている。
県内随一の米どころ・会津地方を所管するJA会津よつば(会津若松市)は、海外輸出した2024(令和6)年産米が計約560トンに上る。全農を通して米国の他、東南アジアやカナダ、英国などに出荷した。関税率の引き上げが生産者の収入減に跳ね返る恐れがあり、米穀課は「輸出先の変更などの対応が避けられないだろう」との見方を示す。ただ、同JA全体のコメの取扱量から見た輸出割合は低く「現時点で大きな影響は出ないと考えている」としている。
福島県会津若松市北会津町のコメ農家、リチャード・ボンドさん(59)と妻のボンド亜貴さん(48)は「事業の見通しが立てにくくなった」と戸惑いを隠せない。アイガモ農法による栽培や、純米酒「ロハ酒」の販売を手がけ、今年秋の米国カリフォルニア州への酒輸出に向け、準備を進めてきたからだ。関税によって、買い手が付くか、不安は尽きないが「商品の独自性に自信がある。個性や魅力を武器に売り込みたい」と前を向いた。
20年近くにわたり、米国と取引のあるほまれ酒造(喜多方市)の唐橋裕幸社長(52)も表情が浮かない。昨年の輸出額は約1億5700万円。このうち、米国が全体の約7割を占めており「現地卸業者と情報交換を密にしながら、輸出国の拡大とリスク分散に努めたい」と話した。■世界経済の動向注視
追加関税発動で県内自動車企業
自動車への25%の追加関税が3日に発動され、関連する県内企業は世界的な経済動向を注視する。自動車のエンジンや足回りの部品などを製造する二本松市のテクノメタルは、米国に直接輸出している製品はないものの、担当者は「世界的な景気後退が起きた場合には自動車の減産が懸念される」とみている。
2022(令和4)年度の県内総生産(名目)の経済活動別構成比に占める製造業の割合は国内総生産より5ポイント程度高い26・6%。県内は輸出への関わりが深い自動車関連や電子部品、情報通信機械などの製造業も多く、民間シンクタンク・とうほう地域総合研究所(とうほう総研)でエコノミストを務める木村正昭さん(57)は「企業における相互関税の影響は大きいだろう」と分析する。
ただ、相互関税の発表には各国・地域から非難の声が相次いでいる。今回発表の税率発動で世界的に取引が縮小すれば、米国経済にも好影響はないとし、「国レベルの交渉で今後の税率がどうなるかを冷静に見る必要がある」としている。