【震災・原発事故14年】福島県浪江町津島地区に長安寺再建へ 墓参り、納骨できぬ無念… 8日地鎮式

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【震災・原発事故14年】福島県浪江町津島地区に長安寺再建へ 墓参り、納骨できぬ無念… 8日地鎮式

福島便り


東京電力福島第1原発事故で福島県浪江町津島地区を離れた長安寺の本院が地元に再建される。江戸時代から続く、地区唯一の寺として住民の弔いや交流を支えてきた。避難先で別院を構え、離散した檀家[だんか]を訪ねるなど奔走してきた先代住職が昨年に他界。住職を継いだ孫の横山法弘さん(35)が8日、地鎮式に臨む。「祖父の遺志をかなえ、津島の人々が心安らげる場にしたい」と誓う。■先代遺志を孫が継承
「当たり前取り戻す」
長安寺は1632(寛永9)年に創建された真言宗豊山派の寺で、地域住民の多くを檀家に持つ。葬儀や法要、祭礼以外にも住民が集い、世間話を楽しむ場だった。穏やかな日々は14年前の3月に一変した。寺では約70人の避難者を受け入れたが、4日後には全町に避難指示が出た。津島の住民約1400人も全国に散り散りとなった。
先代の横山周豊さんは避難所を巡って檀家の安否を気遣った。伊達市や福島市で拠点を探した末、避難の長期化を悟り2014(平成26)年に福島市西中央4丁目に別院を構えた。檀家に葬儀や法要を頼まれれば県外まで出向いてお経を唱え、先祖伝来の墓に納められない遺骨を預かるなどして絆を保ってきた。
2023(令和5)年3月に本院のある南津島の一部が特定復興再生拠点区域(復興拠点)となり、避難指示が解除されたのを機に、解体した建物の再建計画に着手。賠償などで賄える本堂の規模を構想していたが、その年の秋にがんに侵された。病床で本堂の図面を引くなど希望を捨てずにいたが、昨年1月に83歳で力尽きた。
夢を継いだのが法弘さんだ。震災当時は大正大で仏教を学び、卒業後は都内の護国寺にある宗務所に勤めていたが、2年前の夏に帰郷。周豊さんの死去を受けて住職に就いた。
津島では家屋の解体が進み、山里の風景が急速に失われている。檀家数は震災当時とほぼ同じ約500軒を保っているが、津島に戻ったのは数世帯のみ。避難先で亡くなった高齢者も多い。存命でも加齢や避難先と津島との移動に伴う負担を考えて別の地での永代供養や墓じまいを選ぶ人が出ている。
人口の大幅な回復を見込めない地域で寺を切り盛りできるか―。法弘さんにも不安はあるが、「古里の人々に明るい話題を届けたい」という思いが勝った。
地鎮式には檀家の代表らも集まる予定だ。20年近く役員を務める佐々木保彦さん(77)=本宮市に避難=は「地蔵まつり」などの行事でにぎわった往時の寺を懐かしむ。親族の納骨や墓参りを満足にできない無念を周囲から聞いてきた。再建を機に新たに墓を求める人もいるという。「本当に安心した。完成した本堂で早く手を合わせたい」と3年ほど先の完成を待ちわびた。
「故人を弔い、古里に思いを寄せるという当たり前の営みを取り戻したい」と法弘さん。人々が集う未来を思い、自らを奮い立たせている。