少子化を生きる ふくしまの未来 第4部「出会い・結婚」(3) 企業の事情(1) 社員の婚姻後押し

  • [エリア] いわき市
少子化を生きる ふくしまの未来 第4部「出会い・結婚」(3) 企業の事情(1) 社員の婚姻後押し

福島便り


上司の紹介で知り合った相手と結婚し、仲人もお願いする―。どこの会社にもあった光景は今は昔。多様な価値観の尊重や、企業のコンプライアンス(法令順守)意識の高まりを背景に、職場内で私生活に踏み込む行為はしにくくなっている。
そんな中、いわき市などでスーパーを展開するマルトは結婚する社員に対し、給与や住まいを優遇するなどして家族形成を支えている。マルトグループホールディングス(HD)で管理本部取締役本部長を務める根津貴昭さん(58)は「少子化は企業と地域の将来のため、組織として責任を持って取り組むべき課題だ」と支援の意義を語る。
社内制度を2019年に見直し、従来の家族手当や子ども手当を増額した。結婚する正社員には「結婚祝い金」として10万円を支給している。
正社員同士の社内結婚の場合は、希望すれば社宅アパートに34歳まで無償で入れる仕組みも取り入れた。入居する間に貯蓄を増やし、マイホームを手に入れて会社に根付いてほしいとの狙いからだ。無償社宅はこれまでに3組が利用している。
これらの改革に先立ち、企業内保育所を市内2カ所に設け、それぞれ19人の乳幼児を受け入れている。社員からは「空きがあれば社宅に入りたい」「若い世代の生活を考えてくれる」などと、福利厚生への好意的な声が寄せられているという。
改革の背景には急速な少子化と人口減少への危機感がある。働き手を呼び込むため、第2新卒者の募集や初任給の引き上げを行う一方、ベトナム人の技能実習生を毎年受け入れるなどして対応している。
しかし、近年は首都圏や大手を中心に賃上げの動きが激しくなっている。原材料などの経費が膨らむ中、地方企業が報酬面で対抗するのは容易ではない。就職希望の高卒者が減る傾向もあり、採用環境は年々厳しさを増しているのが実情だ。■事業と地域の未来守る
根津さんも以前は後輩や部下の結婚式によく招かれたが、15年ほど前からは「社員が結婚しても会社の人間が呼ばれることはあまりない」。社内の人づきあいの変化を肌で感じている。ただ、地域に密着した小売業という業態である以上、事業の将来に関わる社員やその家族を含めた営業エリアの人口減と無関係ではいられない。
正社員の約半数を占める未婚者にどう家族を築き、事業と地域を支え続けてもらうか。根津さんは「結婚するか、しないかの判断はあくまで個人の自由」と前置きした上で、「結婚しても、子どもが生まれても不安なく働ける職場を整えることが人材の定着、経営の安定につながる」と強調した。
マルトはパート、アルバイトを含む従業員が約4千人を数える。一定の事業規模や経営体力を有しているからこそ、多彩な取り組みができる側面もある。
事業所の規模や業態などによっては、出会いや結婚を望む従業員をどうサポートしていくべきかを思い悩む経営者もいる。