福島便り
福島県双葉町の東日本大震災・原子力災害伝承館のエントランスホールに黄色い自転車がお目見えし、来館者を出迎えている。震災と東京電力福島第1原発事故の発生から約2カ月後、台湾の世界有数のスポーツ自転車メーカーが「移動手段をなくした皆さんのために」と被災地に贈ったうちの1台だ。それから14年がたち、発生当時を知らない世代が増えてきた。自転車を通して日本と台湾の絆を再確認し、世界中からの温かい支援で復興が進んでいることへの感謝を示したいと関係者は願う。
自転車はジャイアント製の特別仕様車で、同社が2011(平成23)年5月ごろに福島県と岩手、宮城両県に計千台、寄贈した。通常の製造ラインを止めて用意したという。車体が黄色いのは街灯が復旧途上の暗い道で「乗った人が事故に遭わないように」との思いやりから。太いタイヤは「凹凸の多い被災地の道でも快適に」との意図。飲料水などの荷物を運びやすいよう荷台もしつらえた。被災地への思いが詰まっていた。
相馬、南相馬、新地などにボランティアで訪れた人らが移動手段として活用した。台湾からの自転車愛好家のツアーが初めて来県するのに合わせ、ツアーを催す「ナショナルサイクルルート認定を見据えたサイクリスト受入体制研究会」や福島相双復興推進機構(福島相双復興官民合同チーム)が展示を企画した。南相馬市社会福祉協議会が保管していた1台を9日から21日まで飾っている。
展示後、伝承館が交流サイト(SNS)で発信すると、今でも大切に使っているという人や、震災当時にボランティアとして乗った人の声が続々と届いた。「ぜひ見にいきたい」との反応もあった。復興推進機構や伝承館は震災と原発事故の記憶と教訓を後世に伝える象徴の一つになればと期待する。
ツアーに参加する台湾の自転車愛好家は12日、伝承館を見学する予定。復興推進機構まちづくり交流推進課長の川尻圭介さんは「台湾も地震の被害を繰り返し受けているからこそ、(東日本大震災の時に)心を寄せてくれたのだろう。たくさんの支援に感謝を伝えたい」と話している。■台湾の愛好家
県内ツアー開始
台湾からの自転車愛好家の県内ツアーは三つある。福島相双復興推進機構や旅行会社、一般社団法人サイクルヴィレッジたまかわと福島空港ビルが企画した。
11日、3ツアーの計約50人が県内入りした。週明けまで滞在し、県内で借りた自転車で桜の名所などを巡る。サイクルヴィレッジたまかわと福島空港ビルのツアー参加者は初日から早速、サイクリングを楽しんだ。
台湾ではレジャー目的で自転車に乗る人が多い。各機関はツアーを今後も継続して展開し、浜通りで目指している国のナショナルサイクルルート(NCR)指定への機運醸成や、福島空港と台湾を結ぶチャーター便の利用拡大につなげる。
相馬市で11日、レセプションがあり、受入体制研究会の井出茂会長があいさつした。円谷真路福島民報社事業局長が指定を後押しするため取り組んでいる事業の概要を説明した。