福島便り
福島県会津坂下町の会津農林高の生徒は今年度、地元の農家や酒蔵と連携し、酒米作りや日本酒醸造の一連の過程を学ぶ。郷土が誇る醸造文化に触れることで、酒造りに関わる担い手の育成につなげる。作物や醸造を専攻する3年生20人が25日から、地元農家の指導を受けて酒米を育て、町内の廣木酒造本店でオリジナルの酒を醸す。県教委によると、県内の高校生が授業で酒造りの一連の工程を体験するのは珍しい。
酒どころ・会津の会津坂下町には、老舗酒蔵が三つあり、醸し出された酒は国内外で高い評価を受けている。ただ、高校生にとって、地元に根付いた酒蔵は決して身近な存在とまでは言えず、町内の米穀店、猪俣徳一商店の猪俣優樹社長(48)は「酒米を使った授業で地元の高校生に発酵や醸造の魅力を広めたい」と提案。高校や酒蔵などの賛同を得た。
生産科学科と食品科学科の生徒が課題研究の授業の一環で各科の学習内容の枠を超えて学びを深める。25日に県オリジナル酒米「福乃香」の種をまき、5月中旬の田植えを経て9月中旬に収穫する。約60アールの農場で約3トンの酒米を収穫する見込み。生徒は地元農家の指導を受けて生育状況を確認し、水管理などにも取り組む。コメの等級検査にも挑戦する。
実際の酒造りは11月以降に本格化する。廣木酒造本店の広木健司社長(58)から酒造りの基本作業を学び、仕込み作業を体験する。オリジナルの酒は来年4月に完成予定。初年度は、搾る量が多くはないため販売はせず、保護者や卒業生ら向けに披露することを検討している。
生産科学科3年の菊地清[しょう]虎[ご]さん(17)は「自分たちが作った酒米がどんな工程を重ねて日本酒になるのかを勉強したい」と目を輝かせている。
日本酒を教材に地元の生産者や経営者の思いに直接触れることで視野を広げてもらい、地域産業を支える人材を育てる狙いがある。酒蔵の後継者は、各蔵の家族が継ぐ傾向が強いとされる。外部からの若者を業界にいかに引き込むかが課題だ。広木社長は、担い手不足による醸造産業の先細りを懸念している。「酒造りや最高峰の醸造技術を広めたい。若い人に入ってきてもらえる職種であるために自分たちが若者の考えを学ぶ機会にもなる」と受け止める。
同校は、事業は来年度以降も継続する方針。国分孝男校長は「地元企業の力を借りて地域産業を支える人材を育成したい」と誓う。