福島便り
福島県大熊町は2025(令和7)年度、中間貯蔵施設敷地内にある建物などの遺構としての保存・活用を検討するため、本格的な調査に乗り出す。候補となる施設の選定、破損状況の確認を進め、広く意見を募りながら保全の可否を判断する。東京電力福島第1原発事故により避難を余儀なくされ、除染土壌を保管する施設の用地を提供した地域の被災前の営みを伝える施設を残すことで、町民が生活していた記録や事故の教訓を後世に伝承したい考えだ。24日、町への取材で分かった。
町が調査するのは町内の中間貯蔵施設敷地にある公共、民間の両方の建造物などが対象となる。このうち、町民の事故前の生活を伝える遺構として特に重要な役割を果たし、保存を求める声も多い熊町小をはじめ、熊町幼稚園、熊町児童館といった教育、保育関連の施設を候補に挙げている。スポーツ施設「ふれあいパークおおくま」や介護施設である「サンライトおおくま」、熊町水産振興公社も例示している。
今年度は活用できる可能性が最も高い施設を選定するため、先行的に議論を進める予定。震災、原発事故の発生から14年余りが経過していることから各施設の損傷や劣化の程度を調べ、修繕や保存の手法や必要な費用の試算などを行い、保存活用案や事業計画を作成する。関係者の合意形成に半年ほどを見込んでいる。秋から年明けには、町民や学識経験者を交えた協議会を設置する方針で、町内外からの意見をまとめる。
浪江町の請戸小は「震災遺構」として2021年10月に一般公開が始まった。3年半で21万3800人が訪れ、福島県のホープツーリズムの中核を担っている。大熊町も保全が決まった施設については原発事故前から残る備品や設備なども含めて公開し、原子力災害の重大さなどを伝える活用の仕方も視野に入れている。
町内から東京都に避難する「30年中間貯蔵施設地権者会」の門馬好春会長は「教訓として残すだけでなく、中間貯蔵施設や除染土壌の県外最終処分の認知度を高めるためにも活用には意義がある」と受け止めを語る。
ただ、保全する施設の維持費用をどう捻出するかなど今後、検討すべき課題も多いという。町の担当者は「中間貯蔵施設内の文化財などを、どのように取り扱うかは大きな課題だ。協議し今後の方針を調整したい」とした。