法定協の経営改革案 福島県~宮城県を結ぶ阿武急、地元が維持管理費 存続目指し新方式検討へ

  • [エリア] 福島市 伊達市

福島便り


福島、宮城両県を結ぶ第三セクター鉄道・阿武隈急行線を巡り、運行する阿武隈急行(本社・伊達市)と関係自治体は「みなし上下分離方式」の導入を検討する。在り方を議論している法定協議会が25日、同方式など抜本的な経営改革案を示した提言をまとめた。鉄路の維持が決まっている一方、現状では沿線の人口減少による需要減に対応できない恐れがあると指摘。鉄道会社が施設・設備を保有し、維持管理費を自治体が担う仕組みの検討を求めた。同社と沿線自治体で構成する「阿武隈急行線再生支援協議会」は近く提言を受け、具体的協議に入る。■会社と自治体近く協議
みなし上下分離方式は、施設・設備の所有権を自治体に移転する「上下分離方式」と同じ効果を、少ない自治体の負担で実現する手法。インフラや不動産の取得費は生じないため自治体の初期投資が抑えられ、体制移行にかかる期間の短さも利点とされる。
沿線自治体は2023(令和5)年度から3年間について、運行会社と赤字を補填[ほてん]する取り決めを交わしている。しかし、2025年度までの時限的な措置となっており、来年度以降の対応は決まっていない。
法定協は、今後の路線維持に向けて国の鉄道事業再構築事業の活用を提案。国の認可を受ければ、レールや枕木の交換、橋梁[きょうりょう]の改修など施設整備費の補助率が通常の3分の1から2分の1に上昇する。ただし、みなし上下分離方式の導入を含めた10年間の路線維持のための計画書を策定しなければならず、沿線自治体による新たな支援の仕組みの構築が必要とした。
福島県によると、来年度から事業を活用するためには10月をめどに計画書を国に提出する必要がある。実現には関係自治体が足並みをそろえられるかが鍵になるとみられる。
提言は福島市で開いた会合で示した。増収策や経営体制の変更、民間人の常勤役員への登用など九つの検討項目に言及。みなし上下分離方式の導入の他、会社経営の健全化に向けた運賃改定や減資の必要性にも触れた。各駅の存在感を所在する市町村が高める取り組みも重要とし、2次交通の整備や駅舎へのスロープ、エレベーターの設置といった環境改善も求めた。
法定協の吉田樹会長(福島大経済経営学類教授)は会合で「阿武隈急行線の価値を高め、どう沿線地域の生き残りを図っていくかという視点が重要だ」と述べた。改善策の実行に向けた検討組織を法定協の内部に新たに設け、議論を継続する考えも示した。
県生活交通課の担当者は「提言をまとめ、経営改善へのスタートに立てた。鉄路を生かした地域間の交流が進むよう後継組織で望ましい運営の在り方を検討する」としている。
再生支援協議会の会長を務める須田博行伊達市長は「沿線住民の移動手段の確保と地域の発展へ、沿線の自治体や関係機関と連携し支援の協議を続けていく」とコメントを出した。
阿武隈急行線は福島市と宮城県柴田町の全24駅、54・9キロを結ぶ。主な株主に当たる福島、宮城両県や沿線5市町は存廃を議論した末に、鉄路での維持を既に決めている。ただ、利用者減や燃料費高騰などの影響を受け、厳しい経営状況が続く。2023年度の利用者数は190万人で、ピーク時の1995(平成7)年度から4割減り、業績としては5億1千万円の赤字となった。