少子化を生きる ふくしまの未来 第5部「産みやすさ」(1) 分娩空白(上) 出産環境どう守る

  • [エリア] 塙町
少子化を生きる ふくしまの未来 第5部「産みやすさ」(1) 分娩空白(上) 出産環境どう守る

福島便り


子どもを産める医療機関が地域から消えている。塙町の塙厚生病院が2月末で分[ぶん]娩[べん]取り扱いを休止し、お産に対応する福島県内の分娩施設は7市の26カ所に。この10年間で約4割減り、都市部への集中が進む。自治体は妊娠・出産環境の変化に伴う少子化への影響を懸念する。不妊治療をはじめとする周産期医療の現状や、妊娠・出産を巡る県民の意識などから子どもを望む人々をどう支えるべきかを探る。
「長きにわたり周産期医療の充実に努めて参りましたが、諸般の事情により分娩体制を維持することが困難となり、産婦人科の入院における分娩取り扱いを休止することになりました」。1月22日、塙厚生病院がホームページに公表した文章の一部だ。
同病院の産婦人科は1966(昭和41)年の開設。東白川郡の4町村(棚倉、矢祭、塙、鮫川)などの妊婦を60年近くにわたり受け入れ、ピーク時は年間約600件の分娩を扱った。郡内唯一の分娩施設となったこの数年間も、年間で50件程度に対応してきた。
休止の背景には医療人材の不足がある。病院によると、往時は8人程度の助産師が働いていたが、定年や離職に伴い次第に減少。最近は「産婦人科医1人、助産師3人」と限られた人員での診療が続いていた。
産婦人科は3月以降も妊婦健診、がん検診などの診療を続けている。ただ、長く分娩の受け皿を担ってきただけに地元には喪失感と先行きへの不安が広がる。
塙町の宮田秀利町長(75)は「安心して産める環境が町内になくなれば若年層がさらに流出し、少子化に拍車をかけかねない。町にとっては痛手だ」と危機感を隠さない。町内の出生数は長く減少傾向にあり、1970年に約1万3500人だった町の人口は約7800人に減った。
町は妊産婦支援の強化を急いでいる。妊婦健診を受けられる最寄りの分娩施設まで、公共交通機関やマイカーで1時間以上かかる場合、交通費を8割補助する国の制度を拡充。移動時間を問わず利用できるようにし、電車やバス、タクシーは全額を公費で賄うこととした。
出産環境をいかに守るかは全国の町村部に共通する課題だ。十数年前には福島県南部と隣接する茨城県大子町の産婦人科「岩佐医院」も分娩を休止し、外来診療のみとなった。宮田町長は「病院経営を考えれば分娩施設がある程度減るのはやむを得ない」とした上で、「これ以上、産科医の機能が失われないよう東白川地方町村会として病院側に要望していく」と周産期医療の重要性を強調した。■対応施設ゼロ52市町村
県内の分娩施設は4月1日時点で26カ所となり、2015(平成27)年の41カ所から15カ所減った。分娩施設が域内にあるのは各7カ所の福島、郡山両市をはじめ、須賀川、白河、会津若松、南相馬、いわき―の7市のみ。分娩施設ゼロの「空白地域」は52市町村に上る。2次医療圏でみても、会津・南会津、相双、県南は2カ所にとどまる。
医師の退職や分娩数の減少…。県地域医療課によると、医療機関が分娩をやめる事情はさまざまだ。居住地外で出産を控える妊婦の安全、安心をどう維持するかが問われている。