少子化を生きる ふくしまの未来 第5部「産みやすさ」(2) 分娩空白(下) 遠方出産募る不安

  • [エリア] 白河市 矢吹町 棚倉町 塙町
少子化を生きる ふくしまの未来 第5部「産みやすさ」(2) 分娩空白(下) 遠方出産募る不安

福島便り


棚倉町で文具店を営む大平晟嵩[まさたか]さん(34)、紗季さん(34)夫妻は双子の誕生を7月末に控え、国際医療福祉大病院(栃木県那須塩原市)に通いながら出産に備えている。日々、母胎で成長する胎児のエコー画像を眺めながら、わが子との対面を心待ちにする。今は無事に生まれてくれることが一番の願いだが、「本当は、もっと近くに安心して出産できる場所があるといいのに」との本音も漏れる。
白河旭高時代に同級生として出会い、2019年に結婚した。昨年11月に妊娠が分かり、おおむね2週間に1回、妊婦健診に通ってきた。仕事で忙しい夫に代わり、矢吹町に住む紗季さんの両親が、片道約1時間かけて車で送迎している。身重の体に配慮して東北自動車道を使えば、燃料費と片道約1500円の高速料金がかかる。身体的・経済的な負担は少なくない。
初産の紗季さんにとって、産婦人科が地元に少ない環境は悩みの種だ。白河厚生総合病院(白河市)など、なるべく自宅から近い医療機関での出産を望んだが、双子という事情もあり、主治医から那須塩原市での出産を勧められた。「体調が急変しても、すぐに駆け込む場所がない」との不安がよぎる。晟嵩さんも「万一の場合、ほんの少しの対応の遅れが母子の安否に関わる。安心して産める環境があれば精神的に楽になる」と妻を気遣う。
県境をまたいでのお産に臨む2人の心配事は、産後の暮らしにも及ぶ。出産後に気分が落ち込む「産後うつ」は、妊産婦の1割程度が直面するとも言われている。ただ、産後ケアに対応する医療機関は東白川郡には見当たらない。安定期を迎える前には、塙厚生病院(塙町)の分娩休止が伝えられた。紗季さんは「乳児2人を世話しながら、遠くの病院に通うのは難しい」と心細さを感じている。■費用以外や産後も支援を
分娩できる医療機関が市町村内にない「空白地域」の拡大は、大平さん夫妻のような「遠方出産」の増加につながっている。県や市町村は環境の変化に応じ、妊婦健診に通う際の交通費や、予定日前に病院付近の宿泊施設に滞在する際の宿泊費など、経済的な支援を充実させている。紗季さんも5月中旬ごろから那須塩原市の病院に入院し、安静に過ごすつもりだ。
新たな生命を迎える男女が憂いなく、産前・産後を過ごせる社会をどう築くか。紗季さんは「助産師や看護師の経験者が悩みを聞いてくれる相談窓口が身近にあれば、妊婦の安心につながるのではないか」と出産そのものへの経済的な支援にとどまらない、きめ細やかな寄り添いを求めている。
大平さん夫妻が隣県の病院に通い始めたのは、不妊治療がきっかけだった。子どもを望む男女の願いをかなえる上では、周産期の医療体制の維持に加え、妊娠を希望する人を後押しする医療の充実も大きな論点となっている。