福島便り
福島県郡山市中心部の市内本町に5月1日、「よりみち家庭医療クリニック」が開院する。ともに福島医大出身の医師、遠藤芽依さん(35)、翔太さん(37)夫妻が経営する。「人も地域も守りたい」。患者の健康や思いに寄り添った医療の提供に加え、施設を地域コミュニティーの場として開放する。県医師会が運営する医業承継バンクを活用し、1月末に閉院した診療所を引き継ぐ。院長を務める芽依さんは「家庭医として患者に寄り添い、一人一人の生き方を応援していきたい」と誓う。
木製の家具や曲線を取り入れた欄間をしつらえた院内で、2人は開院に向けてイベントの計画などを話し合う。「誰もが寄り道したくなる場所でありたい」との思いをクリニック名に込めた。
芽依さんは宇都宮市出身で小学生の頃、海外で人道活動に尽くした医師の故・中村哲さんの本を読み、医師を志した。福島医大の同級生だった郡山市出身の翔太さんと学生結婚し、長女を出産。3人の子育てをしながら、家庭医療専門医として、経験を積んできた。時間をかけて患者に向き合う中、気づきがあった。診療にとどまらず、患者の日常生活や価値観、周囲との関係性を理解し、後押しする重要性を痛感した。住民に身近な医療を提供し、生活に寄り添う「まちのお医者さん」を目指す。
一般内科診療で病気になる前の段階から、訪問診療によるみとりまで、医療を通じて住民らと生涯にわたる関係の構築を模索する。産業衛生専門医の翔太さんが副院長として支える。子どもから高齢者まで幅広く診察する。2人が以前、イベント開催など地域活動をしていた拠点に近かったこともこの場所を選んだ理由の一つになった。
医療以外にも視野を広げ、地域活性化に貢献する考えだ。第1弾として5月31日に待合室で、映画「人生フルーツ」の上映会を開く。今後は住民や患者の要望に応じ、絵画や写真、書道の展示会を催す。マルシェやイベントを企画し、幅広い世代の交流を促していく。多くの人が出入りする場合は感染症対策を踏まえ、主に診療時間外に地域活動に取り組む。
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県医師会によると、2020(令和2)年時点で人口10万人に対する診療所の充足率は全国平均81・3%に対し、県内は72・3%と1割程度低い。2019年に始まった医業承継バンクには今年3月末時点、後継者のいない県内の開業医91人と、承継による開業を望む勤務医71人が登録している。
クリニック周辺はマンションやアパートなど集合住宅が多い。戸建て住宅の住民も高齢化などで人間関係が希薄になっている。県医師会の担当者は少子高齢化が進む中、若年医師による承継で将来にわたって地域医療の安定につながると期待する。