「定時連絡」で監視 警察官かたる成り済まし詐欺 本紙記者に予兆電話 やりとり2カ月、手口巧妙

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「定時連絡」で監視 警察官かたる成り済まし詐欺 本紙記者に予兆電話 やりとり2カ月、手口巧妙

福島便り


福島県内で成り済まし詐欺による被害が後を絶たない。本紙記者が偶然かかってきた警察官をかたる詐欺グループの電話に対して2カ月間にわたりだまされたふりをして取材し、詳しい手口を探った。相手に架空の犯罪の容疑をかける「常とう手段」は、実在する警察署名を出して信ぴょう性を持たせるなど巧妙だった。捜査名目での「定時連絡」の強制だけでなく、他言した場合の反社会勢力からの報復や検察による逮捕をほのめかす悪質な手口も明らかになった。時間をかけて関与が疑われる資金の調査名目で現金の準備を求めるなど周到な面も見られた。
「あなたの携帯電話が使えなくなります」。昨年12月11日、記者のスマートフォンにかかってきた見知らぬ番号からの電話に出ると自動音声が告げた。案内に従った後、応答したのは「東京の中央警察署のアンザイ」を名乗る男だった。「逮捕者からの押収物にあなた名義の通帳があり、口座を売った疑いがかかっている」と言い、電話でのやりとりを繰り返すよう伝えてきた。この時点で詐欺と認識したが、記者は周囲に危害が及ばないよう偽名を使い、その後、県警と相談の上、取材を進めた。主な文言は【表】の通り。
電話を始めてすぐに「取り調べ」のためと称して、午前と午後の1日2回の「定時連絡」を記者に課してきた。虚実織り交ぜながら相手の恐怖心をあおり、警察への通報を防ぐ巧妙なものだった。「連絡がなければ異変を感じ取れない」などもっともらしい理由をつけ、「(定時連絡を怠った人が)家の中で血だらけで倒れていた。反社会勢力の証拠隠滅だろう」などと被害に遭う危険性も示唆した。「東京中央検察庁のシンジョウ」を名乗る男も登場し、「在宅での取り調べを許可した」「(秘密を守れない場合)逮捕勾留が可能だ」などと強制捜査への発展もほのめかした。
造語とみられる国家による調査などの言葉を並べ立てる一方、「特定秘密保護法」「中央警察署」など実在する法律や警察署の名前も示した。インターネットで検索されても支障がないようにする狙いがあったとみられる。
9日目ごろから記者の口座が捜査のため、数カ月凍結されることが伝えられるなど現金をだまし取ろうとする準備が本格化した。29日目ごろにシンジョウは記者が持つ預金などを調べるとの名目で口座の開設を要求。その後、パスワードや口座番号などを教えるよう促してきた。オンラインでの口座を扱うことを念頭に一定時間しか使えないが入力が容易な「ワンタイムパスワード」方式を導入するようにも迫ってきた。記者が既に他の認証方法を使っていたため、設定できない旨などを伝えると進[しん]捗[ちょく]がない状況が続いた。
2月に入り、アンザイから突然、疑いが晴れた旨の連絡があった。理由は告げられなかったが、59日に及ぶやりとりの幕引きだった。
県警本部生活安全企画課は「警察が捜査名目で現金を要求したり、口座開設を求めたりすることはない」として、注意を呼びかけている。