【真相深層】主食用米高騰、価格差拡大 福島県内備蓄米生産苦悩 農家不満「今年はやめようと」

  • [エリア] 郡山市

福島便り


コメの値段が高騰する中、政府備蓄米を栽培・出荷してきた福島県内の農家は今年も生産し続けるかどうか苦悩している。2024(令和6)年産の備蓄米の価格が主食用米の市場価格を大きく下回る状況となっているからだ。国策に協力してきた生産者が損をする形になっており、「今年はもう備蓄米に回さない」と意向を固めた生産者も。福島県は備蓄米の生産量が全国上位を誇る。現状のままだと備蓄米の確保に支障が出る恐れがあると県内の農業関係者は危惧し、備蓄米生産者への支援を求めている。■不公平感
郡山市日和田町の農業鈴木昭栄さん(66)はコメを50ヘクタール近く栽培している。2019年から県オリジナル米「天のつぶ」の一部を備蓄米に出し、2024年産は前年の180俵(1俵当たり60キロ)から倍増の360俵(同)分を生産した。
県内は東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で大きな被害を受けた。その後も全国各地で大規模な災害が頻発している。地域が災難に遭った際に国民を救うために放出するという備蓄米の趣旨に賛同し、国に協力してきた。しかし、「今年は備蓄米の契約をやめようと思っている」と打ち明ける。政府の対応に不満を感じているためだ。
政府による備蓄米の買い入れは事前契約で、前年の11月ごろの相対取引価格を基準に価格が設定される。例年、市場価格と大差なく推移してきたが、2024年産は状況が大きく異なった。主食用米の価格はコメの不足感から急上昇。備蓄米との格差は1俵当たり1万円以上となった。
鈴木さんは2024年産米では、単純計算で360万円以上手取りが減った。そのことに対する政府の追加払いなどの手当ては今のところ、ない。鈴木さんは「このまま政府の支援がなければ、私以外にも備蓄米の生産をやめる人が増えるだろう」と指摘する。
契約に反して備蓄米分を出荷すると違約金を取られる。関係者によると、県内の生産者の中には違約金を支払ってでも高値で売れる主食用米として販売する事例も複数出ているという。■政府与党に要望
JAグループ福島は備蓄米生産者の声を受け、政府や与党に2024年産備蓄米の買い入れ価格の追加払いをするよう求めている。3月10日には関係者が農林水産省を訪れ、庄子賢一農林水産政務官に要望書を手渡した。3月18日にはJA福島五連の管野啓二会長が自民党本部で小野寺五典党政調会長と面会し、生産者の苦悩を直接訴えた。
管野会長は福島県が備蓄米の都道府県別の生産量で上位である点に触れ、「国策に協力したのに生産者が損をするようでは政府との信頼関係が途切れてしまう」と危機感を募らせる。「備蓄米生産者の意欲を低下させないための早急な対応を」と求めている。※政府備蓄米とは
著しい不作などの緊急時に備えて国が保有しているコメ。1993(平成5)年の大凶作をきっかけに1995年から制度化された。適正な備蓄量は約100万トン。毎年20万トン程度を買い入れて5年ほど保管し、古くなったコメは飼料用などに販売する。農林水産省は今年1月に運営方針を変更し、コメの円滑な流通に支障がある場合でも放出できるようにした。