福島便り
不妊治療への公的医療保険の適用範囲が拡大されたのは、2022(令和4)年4月だ。人工授精などの一般不妊治療に加え、体外受精や顕微受精、男性不妊の手術といった、より高度な一部の「生殖補助医療」も対象となった。
日本産科婦人科学会の調査によると、2022年の国内の全出生児約77万人のうち、生殖補助医療により誕生した子どもは約7万7千人と10・0%を占めた。15年前の1・8%から上昇を続けている。不妊の検査・治療を受けた経験のある夫妻は2021年に4・4組に1組ともいわれている。経済的な負担の軽減を追い風として、妊娠に至るために医療の力を求める男女は増えている。
にもかかわらず、福島県によると、生殖補助医療を提供している福島県内の医療機関は福島、会津若松、郡山、いわきの4市の7カ所に限られる。結果的に福島医大生殖医療センター(福島市)に多くの患者が集中する。生殖内分泌が専門で、センター長を務める高橋俊文教授(59)は「人口規模を考えると(県内の)受け皿は少ない。仙台などに比べて医療へのアクセスは良くない」との認識を示す。■労働環境も継続の鍵に
生殖医療センターは2019(平成31)年4月の開設以来、多職種連携による体制を敷いている。産婦人科医3人、泌尿器科医1人が常勤。胚の培養・凍結などを担う「胚培養士」3人とカウンセラー、看護師と診療に当たる。受診数は増えており、ここ3年間は1万5千件前後で推移している。
高橋教授は保険適用に伴う受診環境の変化を「若い人にとって、治療までのハードルが下がった」と肯定する。保険適用となる年齢や治療回数に上限がある点を課題とした上で、妊娠を望む県民の願いに応える生殖補助医療を支える意義を強調する。専門医の育成を含め、永続的に治療を提供できる公的病院としての機能を高めていく考えだ。
不妊の背景には、晩婚化などの社会構造的な要因も横たわっていると指摘。より多くの人が治療を続けるためには医療現場の充実と並行し、「治療と仕事を両立できる労働環境や、教育の在り方を考える必要がある」とも訴える。
県は生殖医療センターの強化や「全国でトップクラス」(子育て支援課)とする治療費の助成などにより当事者を後押ししてきた。しかし、症状次第では長期間に及ぶ治療を続ける上では、職場をはじめ周囲の理解やサポートも重要となる。
不妊治療に対する県内企業の認識を示すデータがある。県が民間事業所を対象に昨年行った労働条件等実態調査によると、不妊治療休暇を定めている事業所は回答のあった784社のうち、38社(4・8%)。有給として扱うのは、このうち5割にとどまった。
設問は少子化対策に役立てようと今回、新たに項目に加えた。雇用労政課の担当者は「治療と仕事を両立できる休暇制度を設けた企業への奨励金を拡充するなど、治療を受けやすい職場環境づくりを進める」としている。