福島便り
福島県内の周産期医療は2011(平成23)年3月に起きた東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で危機に陥った。産婦人科・小児科医の不足を受け、県が着手したのが医師確保の仕組みづくりだ。
2016年には福島医大内に「ふくしま子ども・女性医療支援センター」を開設。全国から専門医を招聘[しょうへい]し、医大や各地の病院で地域医療や医師育成の担い手とした。開設から10周年を迎え、福島市で4月12日に開いた記念講演には関係者が集い、女性の健康を守る決意を新たにした。
日本産科婦人科学会の理事長として開設に尽くした吉村泰典副学長(76)=慶応大名誉教授=もその一人だ。女性の健康について講演する中で、少子化対策で持つべき視点にも言及。若い男女に妊娠・出産を見据え、性や妊娠に関する正しい知識を身に付けてもらい、健康管理を促す必要性を説いた。
こうした考え方は「プレコンセプション(妊娠前)ケア(プレコン)」と呼ばれ、近年、各方面から注目を集めている。
安全な妊娠・出産や新生児の健康のためには、妊娠前から女性の心身を健康に保つことが欠かせない。例えば、若い女性の「やせ」には栄養不足などの恐れがあり、貧血や将来の骨粗しょう症の原因となる。「肥満」は糖尿病や高血圧などの危険性を高める。プレコンは2000年代ごろからその重要性が言われるようになり、世界保健機関(WHO)も推進を提唱している。
国内ではやせ・肥満の増加に加え、女性のキャリア形成や晩婚化・晩産化に伴う出産年齢の上昇、生殖医療技術の向上などが進んでいる。生活習慣病や慢性疾患のある女性も子どもを持ちやすくなった一方、リスクの高い妊娠のケースが増えている。
中学、高校など早い段階からこうした問題の認知度を高めようと、こども家庭庁は4月、今後5年間で進める取り組みの計画案を有識者検討会に示した。食事・睡眠など生活習慣に関わる指針や、妊娠・出産の知識を若者に普及する。学校での出前講座や企業の研修などを通じて助言できる人材の養成などを目指している。
吉村副学長は、講演の中で国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査(2021年)のデータも示した。「結婚したら子どもを持つべきだ」との考えに「賛成」とした未婚者の割合は男性が55・0%、女性が36・6%にとどまったと紹介。男女ともに減少傾向にあることに触れた。少子化対策に当たり、多くの若者に妊娠・出産を前向きに捉えてもらうためには「若者の意識が『次の段階』に進んでいることに気付かなければいけない」と出席者に語りかけた。