追跡 狙われた無住寺 福島県三春町などの仏像窃盗事件 古物営業法抜け穴悪用 住民パトロール始めた地域も

  • [エリア] 須賀川市 三春町
追跡 狙われた無住寺 福島県三春町などの仏像窃盗事件 古物営業法抜け穴悪用 住民パトロール始めた地域も

福島便り


昨年、福島県三春と郡山、二本松の3市町の寺から仏像・仏具などを盗んだとして男が逮捕された事件。取材を進めると、住職が常駐していない無住寺の拡大と近年の仏像ブームが、盗難を誘発している可能性が見えてきた。さらに古物営業法は、被害発覚日から1年間経過すれば、購入者から元の持ち主への返還義務が失われると定めており、この抜け穴を悪用する業者もいるという。専門家は規制の強化を訴える。
文化庁に登録している県内の寺院数は2023(令和5)年12月31日時点で1530寺あり、3割に当たる約480寺が住み込みの管理者が不在だった。逮捕された男は無住寺を狙っていた。住職1人が10カ所以上を兼務するケースもあり、少子高齢化や過疎化の進行による後継者不足で、無住寺は県内各地で増加している。
被害に遭った三春町の住職は複数の寺院を管理している。「隅々まで目を配れない」と対策の難しさを吐露する。事件後、無事だった観音像を別の寺院へ移した。ただ、仏像の不在を知らずに参拝する人を見るたび、「心苦しかった」ともどかしさを口にした。
仏像・仏具の盗難は全国でほぼ毎年発生し、県内では約5年置きに大量に盗み取られる被害が起きている。県警本部によると、無住寺の多い郊外が被害に遭いやすく、広域的に狙われる傾向が強いという。◆ネットで取引も
2009(平成21)年に国宝を紹介する展示会が東京国立博物館で人気を博したのに加え、東南アジアなどの海外でも仏像の収集が盛んになり、「仏像ブーム」が続く。県内の古物商関係者によると、仏像としては小ぶりな高さ30センチほどでも30万~50万円の高値で取引されているという。
文化財防犯が専門の奈良大文学部の大河内智之教授は、外国人でも参加しやすいインターネットオークションで盗まれた仏像が取引されていると指摘する。
盗難発覚後、1年が経過して寺院側への返還義務が失われた場合、寺院側は購入者と交渉し、買い取り価格分を支払わなければならない。このため泣き寝入りすることもある。
大河内教授によると、中には入手から数年待ち、返還義務期間を過ぎたころを見計らってインターネットオークションにかける出品者もいるという。◆危機感募らせる
財政的な事情から防犯対策が十分に取れない寺がある中、県内の一部地区では住民が主体となり、地域の宝を守る取り組みが動き出した。
須賀川市横田の護真寺では今年3月、県重要文化財「木造宝冠[ほうかん]釈[しゃ]迦[か]如来坐像」が何者かに盗まれたことが明らかになった。地元住民の一人で、県文化財保護指導委員を務める大岡清一さん(74)は「このままでは他の文化財も同様の被害に遭ってしまう」と危機感を募らせた。地元で保管されている仏像の写真をまとめ、所在地などの情報を住民と共有した。住民と協力して4月からパトロールを始めた。
大岡さんは「心のよりどころを守る活動を県全体に広げていきたい」としている。