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福島県内の自動車整備業界が働き手不足に直面している。少子化や若者の自動車への関心の低下などを背景に、整備士を目指す若者が減っているためだ。2023(令和5)年度の県内の整備士の有効求人倍率は5.05倍と全業種平均の1.37倍を大幅に上回った。整備業者などでつくる業界団体は高校生向けの整備講習会を20日に初めて開くなどの対策に乗り出す。地方での暮らしに欠かせない「生活の足」を支える人材の確保に力を入れる。
「整備士の求人を出しても応募がない」。ソエタ自動車(郡山市熱海町)の社長添田善一郎さん(64)は採用のめどが立たない現状に頭を抱える。自身を含めて4人が整備士資格を持つが、春はメーカーの決算期に車検の依頼が重なる繁忙期だ。整備士だけで対応できず、板金塗装の担当者を作業に加えて乗り切った。
整備士は72歳を筆頭に高齢化し、先行きには不安が募る。市内外の高校に採用活動で赴くが、生徒の反応は芳しくない。「人に喜んでもらえる仕事だが…」ともどかしさを募らせる。
県自動車整備振興会によると、会に加盟する国の認証工場は県内に約1700カ所あり、整備士約7800人が働いている。会員事業所の人手不足についてインターネットやスマートフォンの普及に伴い車への興味が薄れ、整備士を職業に選ぶ若者が減ったと分析。大学進学率の上昇なども影響しているとみる。
整備士になるためには国の技能検定試験を通る必要がある。合格すれば検定試験が一部免除される年2回の技能登録試験のうち、新卒者が多く挑む2回目の県内受験者数の推移は【グラフ】の通り。2024年度は過去15年で最少の352人だった。同期間で最多の2017(平成29)年度の508人の約7割に落ち込んでいる。
県振興会によると、業界内では比較的、採用が堅調なディーラー直営工場の中にも求人先を専門学校卒から高卒まで広げる動きがあるほか、整備を専業とする中山間地の業者では特に人手不足が深刻という。同会の教育課は「人材難がさらに進めば業者の対応力が低下する。車検や修理に要する期間が長引くなど県民生活に影響しかねない」と危惧。整備講習会は打開に向けた初の試みとして20日、二本松実高(二本松市)で開くこととした。
当日は機械システム科の1年生に、整備士の仕事や資格取得の流れを説明。ナット締めや異常・故障を見る機器の取り扱いを体験してもらう。今後は同様の講習会の継続に加え、全国の職場環境の改善事例を会員事業所に周知するなど、離職対策にも力を入れる。
業界離れの兆候は育成現場にも表れている。県内に5校ある養成校のうち、県立テクノアカデミー浜(南相馬市)の自動車整備科は2020年度以降、入学者が定員20人を割る年が増え今春は半数の10人に。県立テクノアカデミー会津(喜多方市)の自動車整備科も今春の入校者が12人と定員の20人を下回った。同校は学校見学会に現役整備士を招き、仕事ぶりをイメージしてもらう。