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福島県いわき市の水産加工・販売などの民間企業は今月、福島県沖で水揚げされた水産物「常磐もの」の輸出拡大に向けた団体「常磐もの輸出推進協議会」を設立した。各事業者の強みを生かしながら、常磐ものの加工品を主力に経済成長が著しい中東地域や東南アジアなどの新たな海外市場を開拓し、販路を広げる。福島県水産業の本格操業の実現には需要のさらなる確保が不可欠となる。海外にも消費地を広げることで東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の打撃を受けた福島県漁業の復興に貢献する。
県水産課によると、常磐ものの輸出に特化した民間企業による団体は初めて。常磐ものをPRする事業に取り組んでいる鮮魚店運営のおのざき、魚の鮮度保持技術に定評がある仲買業者のいわき梅田水産、レトルト食品などの製造を受託するいわき遠野らぱんの3社が設立段階で参画した。今後、趣旨に賛同する他の浜通りの水産関連業者にも参加を呼びかける。参加企業間で連携し、これまで企業単独では難しかった輸出品の充実や実績のない国への流通経路の拡大を目指す。
輸出品の第1弾として、おのざきが開発し、遠野らぱんが製造する県産ヒラメのすり身を使った離乳食を予定。9月にも販路開拓や現地調査に乗り出す計画で、商社とのマッチングに当たって日本貿易振興機構(ジェトロ)の助力を得る。県産品の輸出を支援する県の助成金に申請し、福島相双復興推進機構(官民合同チーム)の支援も受ける。
輸出先には、中東のサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)、東南アジアのタイやシンガポールなどを想定。東アジアほど原発事故による風評が根強くない上、現地に進出した日本企業の駐在員も多く、日本食が浸透し始めている強みがある。参加事業者は県産の干物の販売や見本市に出展した国もあることが輸出の追い風になると見ている。
県内沿岸漁業は原発事故後に自粛を余儀なくされたことで、販路も途絶えた。水揚げ量は段階的に増え、2024(令和6)年は速報値で6470トンとなったが、震災前の約25%にとどまる。漁業の本格復興には国内外で出荷先を増やすことが求められている。県産品振興戦略課によると、2023(令和5)年度の水産加工品の輸出額は1億9800万円と県産品輸出全体の1割超を占めており、今後も需要の拡大が見込める分野だ。
協議会代表の小野崎雄一おのざき社長は「常磐もののおいしさをアピールし、高付加価値なブランドとして海外に浸透させたい。中東や東南アジアを足掛かりに、10~20年後にはニューヨークやパリの高級店に並ぶ、一流の商品として扱われるようにしたい」と展望を描く。