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所有者が手入れしていない森林の管理を市町村に委託する国の森林経営管理制度の活用が福島県内で進んでいない。県内の半数の市町村が未着手だ。背景には森林の価値を見極める専門知識を持つ職員の不足がある。山林の荒廃が進行すれば、火災や土砂災害、有害鳥獣の被害の拡大を招くと関係者は危機感を募らせる。県は今年度、森林行政に精通したアドバイザーと契約する市町村を支援する施策を展開し、制度活用を推進する。■災害リスク
制度の概要は【イメージ図】の通り。森林の所有者が管理できない場合、市町村に森林の管理を委託し、林業経営の効率化と森林管理の適正化を促進するのが狙い。2019(平成31)年4月に制度化された。
2024(令和6)年の県森林・林業統計書によると、福島県の森林の面積は97万ヘクタールで県土の7割を占めている。このうち民有林は56万ヘクタールで6割。民有林の中で制度の主な対象となる人工林は20万ヘクタールとなっている。
県によると、県内59市町村のうち制度利用に着手しているのは30市町村、未着手は29市町村。ただし、湯川村は県内で唯一山林がなく、東京電力福島第1原発事故に伴う帰還困難区域といった特殊事情で着手できていない自治体もある。
県森林組合連合会などによると、制度の活用が進まず手入れが行き届かない森林は山崩れや土砂流出のリスクが高まる。間伐が進まずに樹木が密集すれば、根が十分に育たず、本来の保水機能を発揮できずに災害の拡大を招く恐れがある。
森林が放置されたままの場合、火災が発生した際に林道の未整備によって消火に支障を来す懸念がある中、今春に全国で大規模な山火事が相次いだ。さらに熊など有害獣との緩衝地帯がなくなり、人と遭遇する危険が高まる。県内では近年、浜通りでも多数の熊の目撃情報が寄せられている。
いわき市に山林を所有している田子英司会長は制度活用が進まない現状に危機感を抱く。「地域の安全安心のためにも森林整備の加速は急務だ」と訴える。■重い負担
制度の運用には、林業経営にふさわしい森林を見極める専門知識が必要となる。下郷町には、こうした職員が不在のため、意向調査に着手できていない。
民有林(人工林)約1万4千ヘクタールを有する南会津町は既に意向調査に着手した。ただし、膨大な事務作業による負担が影響し、毎年50ヘクタールずつしかこなせていない。調査を加速化したいが、職員数に限りがあるのが現状という。
県森林審議会長で森林利用学が専門の藤野正也福島大食農学類准教授は、大半の職員は数年で異動するため、専門知識を持つ職員が育たない実情を指摘している。「人手がない中で専門知識も経験もない職員が、制度を担うのは現実的に難しい」としている。■林政アドバイザー
制度の活用を促進しようと県は今年度、森林・林業の知識や経験を有する元県職員や森林組合の職員らと市町村が契約する費用を支援する。
専門知識を有し市町村と連携するのは「地域林政アドバイザー」と呼ばれ、市町村の森林・林業行政に一定期間携わる。県によると、市町村がアドバイザーの所属する法人と契約する場合の経費の一部を負担することを検討しているという。
県森林計画課は「事業を通じて地域の森林の効率的な集積と経営管理を推進する取り組みを支援したい」としている。