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福島市松川町の未来農業社長、丹野友幸さん(49)は県産オリジナル酒米「福乃香」で初の特等を生産した。県内で農産物検査を受けた2024(令和6)年産263トンのうち、特等米比率は0・8%でわずか2トン。丹野さんの福乃香は昨年の猛暑に耐え、コメの中心部「心白」が大きく丈夫な粒に仕上がった。上質な酒造りには申し分ない。地元の金水晶酒造で初めて仕込まれ、全国新酒鑑評会に出品された。「これからの酒造りを支える酒米を作り続ける」と極上の酒米を追い求めている。
酒米(醸造用玄米)の等級は整粒の割合や形質などによって「特上」「特等」「1等」「2等」「3等」「規格外」の6段階に分類される。県産オリジナルの福乃香は2020年に品種登録されて以降、2023年産までは1等が最高で、2024年産は特等が0・8%、1等が94・2%、2等が5%だった。
清らかな水をたたえた田んぼの前で丹野さんは大型ドローンを操り、空から福乃香の種もみをまく。田植えの省力化のため今季から導入した。「どう育ってくれるかな」と声を弾ませる。町内水原地区の水田30ヘクタールのうち、酒米の作付けは3分の1の10ヘクタール。高い品質を維持しながら、栽培面積の拡大を目指している。
悩ましいのは近年の高温対策だ。酒造りに不適とされる、粒が割れる「胴割れ」やコメが硬くなるリスクが高まっているという。耕作地を水原川の上流近くに移し、より冷たい水を田んぼに引くよう工夫した。特等は生産量全体の2割超に増えた。一昨年の秋に導入した最新の色彩選別機で、均一な粒を提供できる環境を整えた。
田んぼに投入する肥料を極力抑えている。収量は減るが、雑味の少ない上品な味わいにつながるという。金水晶酒造は今回の鑑評会から初めて福乃香を使用する。杜氏[とうじ]の菅野和也さん(52)は「舌触りが滑らかで、きれいな酒質に仕上がった」と話す。
主食用米の需要が高まっているが、丹野さんは酒米作りを手放すつもりはない。「コメ農家」ではなく「酒米農家」だと強調する。20代半ばで脱サラし実家の農家を継いだのは、松川町の文化や伝統に根差した酒造りに強く引かれたからだ。当時、農業の将来を案じる父・幸雄さん(83)から「戻ってくるな」と突き返されたが、決意は揺るがなかった。今では生産者や蔵元などでつくる福島地域酒米研究会の代表として、県産酒米作りの先頭に立つ。