福島のニュース
平均寿命の延伸や情報通信技術の進歩、働き方改革―。さまざまな事情によって日本人の生き方や仕事との関わり方が大きく変化している。重要性を増しているのが人生の各段階に応じて新たな知識などを身に付ける「学び直し」だ。企業が従業員に技術などを学ぶ機会を提供する「リスキリング」、個人が仕事や生きていく上で役立つ知識などの習得に努める「リカレント教育」などの機会も広がっている。
福島市の桜の聖母短大は大人の学び直しの場として「開放講座」を設けてきた。語学や文化など年間約150の講座を展開している。ただ、受講者のうち約8割を60~70代が占め、子育て世代に当たる30~40代の参加はまれという。桜の聖母生涯学習センター長の三瓶千香子さん(51)は「働く世代に受講してもらえる講座の開設にはまだまだ課題がある」と現状を語る。
家庭の経済不安が少子化の一因とされる中、育児がしやすい社会を築く側面からも「学び直し」への関心が高まっている。働く人が資格の取得などによって収入を維持したり、子育てを理由に会社を辞めた後も、希望すれば円滑に再び仕事に就けるように国も希望する人を研修中の賃金の助成などで後押ししたりしている。
ただ、職場の環境づくりや理解の広がりは途上だ。帝国データバンクの調査では、県内でリスキリングに「取り組んでいる」とした企業は3・6%で、全国平均の8・9%の半分以下だった。対応できる人材の不足に加え、導入の手法が手探りの企業が多いことが背景にあるという。
一方、岸田文雄前首相は2023(令和5)年1月の国会答弁で、育児中の人の学び直しを後押しする姿勢を強調した。ただ、交流サイト(SNS)上などでは子育て中の母親などから「産休・育休中に取り組む余裕はない」などとする批判が続出。政府と国民の感覚の差や課題が多い現状が浮き彫りになった。
三瓶さんは学び直しについて、大企業は従業員向けの体制を充実できる一方、地方の中小企業にはその余力がなく、二極化していると指摘。知識や技術を身に付ける環境の「格差」が縮まらなければ、若い世代の首都圏などへの流出が深刻化する可能性もあるとする。「大学もリカレントの充実を目指す企業側のニーズに応えなければならない」とし、大学や企業など関係機関が話し合う場の必要性を訴える。助成を申請する際の条件や必要書類の多さといった「壁」をなくすことも行政には求められるとしている。
リスキリングには集中して学ぶ時間と環境が必要だと強調。子育てからの復職を目指す人に対しては「助成金を出すだけではなく、保育施設の増設やベビーシッターの育成・普及など『まとまった時間の確保』を可能にするための施策が必要ではないか」と国に提言している。