福島のニュース
小泉進次郎農相が政府備蓄米放出の新方式を発表した26日、福島県内の消費者や小売業者は高騰を続けるコメの安い価格での購入や市場全体での価格の低下を期待する一方、「果たして地方に行き渡るのか」などと今後の効果を半信半疑で受け止めた。現時点で随意契約での売り渡し先は年間1万トン以上を扱う大手業者に限られるなど厳しい条件が付いている。県内に本社を構えるスーパーで対象となるのは一部にとどまるとみられており、県民からは「地域差が生じない供給体制を」と切実な声が上がる。
「今までより安い価格でコメが出回ってくれるならありがたい」。本宮市の会社員伊藤夏菜恵さん(31)は新方式での備蓄米放出に期待感を示す。母、妹家族らと8人暮らしの食卓の風景は米価高騰により様変わりした。朝食と夕食をパンやうどんに変えるなどコメを使う量を減らすため苦慮しているという。「地域で偏らず、普段通うスーパーで今よりも気軽に買えるようになってほしい」と幅広く店頭に並ぶよう望む。
一方、随意契約による販売先が限定されることなどを疑問視する声も上がる。西郷村の無職草野好勝さん(72)は「すぐに品切れになり、さらなる価格上昇につながらなければいいが…」と地域での売り手の広がりを欠く状況を心配する。輸入米の販売を広げる動きもあるが、食べ慣れている国産米を口にしたいと願う。価格の低下の効果についても「一過性ではないか」といぶかしんだ。
国は割安な備蓄米を全国に幅広く流通させるため、インターネット販売も検討しているが、ネット環境に慣れていない高齢者らからは不満も漏れる。本宮市の無職佐々木保彦さん(77)はネット通販で状態の悪いコメを買ってしまった人のニュースを目にした。手順の煩雑さに加え、「実物を見て購入できないのも不安」と慎重だった。
県内では取扱量の条件を満たさず、随意契約の対象外となる見通しのスーパーもある中、県民に行き渡らせるための仕組みの不十分さや不公平さを指摘する声などが上がった。
いわき市を中心に店舗展開するマルトの担当者は大手に限定する手法について全国に広く流通させるのに一定の効果があるとの見方を示す。ただ、福島県を含む地方は大手スーパーがない地域も多く、実効性の十分さには首をかしげる。
随意契約の対象外だが、現状を知ろうと26日に農林水産省がオンラインで開いた事業者向け説明会に出席。質問が相次ぐ中、農水省の担当者が「後でホームページに掲載する」と繰り返すなど取り組みの「急ごしらえ」を感じる場面もあった。
県北地方を中心に店舗を構えるいちい(本社・福島市)も「対象に該当しない」とする。店頭では備蓄米を含め最も新しい昨年産米を中心に販売している。バイヤーの伊藤将希さん(32)は「店舗間で価格差が開けば、随意契約で仕入れた安いコメのある店に客が集中してしまうのではないか」と話し、地方のスーパーも契約できる方法を国に求めている。福島市飯坂町のスーパー「アルタ」でコメの仕入れを担当する石川孝さん(64)は県産米の販売を大切にする中、「消費者が地元のコメを選ばなくなるのでは」と不安は消えない。