福島のニュース
罪を犯した人に科す刑罰のうち、懲役刑と禁錮刑を一本化した「拘禁刑」が6月1日に創設される。同日以降に事件や事故を起こし、有罪となった人が対象となる。刑務作業が義務ではなくなり、「懲らしめ」から改善更生に軸足を移す。100年続いてきた矯正処遇が大きな転換を迎える。受刑者の特性に応じた作業や指導を柔軟に組み合わせる更生プログラムは、刑法犯の2人に1人とされる再犯者率の高止まりを改善できるのか。福島刑務所の塀の中を見つめた。(社会部キャップ・服部鷹彦)
福島市南沢又の福島刑務所は、何度も窃盗を繰り返す高齢者や薬物依存者ら犯罪傾向が進んだとされる受刑者を収容している。5月1日現在、成人男性736人が生活する。
高さ約4メートルの分厚い壁に囲まれた施設内の一室で、年老いた男性受刑者(74)がうつむきながら、ゆっくりと口を開いた。
「刑務所暮らしはもう、終わりにしたい」
初めて犯罪に手を染めたのは20代の頃だった。「車が欲しかった」という短絡的理由で他人の乗用車を奪い、監禁や道交法違反などで有罪判決を受け刑務所に入った。出所した後も傷害や窃盗、建造物侵入などを繰り返し、刑務所に収容されたのは11回目で、計20年余に上る。刑務所内でも粗暴な振る舞いを続けた。これまでに犯した罪から目を背け、悔い改めようとはしなかった。
ところが、寄る年波には勝てない。70歳を超え、体が思うように動かなくなってきた。「残された人生を普通に暮らしたい」と初めて思った。改善指導を受け、刑務作業にも真面目に取り組む。拘禁刑下で指導の時間が増えることへの期待も大きい。ただ、出所したとしても高齢者を雇ってくれるところはあるのか、暮らしていけるのか。不安は尽きない。
法務省の「犯罪白書」によると、全国で2023(令和5)年に刑法犯で摘発された18万3269人のうち再犯者は8万6099人で再犯者率は47%に上った。県内の摘発者2046人のうち再犯者は941人で再犯者率は46%だった。
犯罪摘発の根拠と処罰を規定した刑法は1907(明治40)年の制定以来、刑罰の種類が変わっていない。懲役刑の刑務作業は罰で、100年以上にわたり「懲らしめ」とされてきた。禁錮刑は刑務作業を義務としていないが、本人が希望した場合は従事させている。
現行法で受刑者の分類や刑務作業の班編制は、主に受刑者の犯罪傾向の進行度を基準にしてきた。そのため、窃盗を繰り返す高齢者と暴力団組員のように、背景が異なる受刑者がいても画一的な対応を取らざるを得ないケースがあり、課題とされてきた。
再犯防止を重点とする拘禁刑下では、個々の受刑者に応じた処遇の実現に向け、24種類の課程に再編した。おおむね70歳以上の高齢受刑者を対象とした「高齢福祉課程」、薬物依存からの脱却を目指す「依存症回復処遇課程」、知的・発達障害を抱える人向けの「福祉的支援課程」などが設けられる。現行の懲役刑と異なり、刑務作業が義務ではないため、足腰の弱った高齢受刑者はリハビリを重視するなど柔軟な対応が可能になる。
犯罪傾向が進んでいる受刑者の更生に、拘禁刑が効果的かは現時点で未知数だ。
「ヤクザの立場で改善指導は受け入れられない。言っちゃ悪いけど、(拘禁刑は)意味がないと思うよ」
県外の暴力団に所属し、薬物犯罪で福島刑務所に服役している男性受刑者(51)は言い切る。コカインを使用したとして麻薬取締法違反の罪で懲役2年2月の判決を受けた今回を含め、いずれも薬物がらみで4回、収容されている。
拘禁刑下では、薬物依存からの回復や暴力団からの離脱に関する指導に多くの時間が割かれるようになるが、男性受刑者は「出所後も堅気には戻らない」と更生を望んでいない。
刑務官がこれまでになく親身になって話を聞いてくれるという。社会復帰への意欲を喚起させるような対応で、拘禁刑導入を間近に控えた塀の中の変化を感じ取ったという。ただ、「刑務作業という『懲らしめ』が減ると、甘やかされている気分になる。調子が狂うよなぁ」と首をかしげた。