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「組合内で絶対的な存在となっていた」。29日、財務省東北財務局から業務改善命令を受けたいわき信用組合(本部・福島県いわき市)。会長・理事長としてトップの座に20年間君臨した江尻次郎氏による“長期政権”が組織の腐敗につながったとみられる。法令順守よりトップの命令が優先されるというゆがんだ体質が明らかになり、利用者らからは「うみを出し切らなければ前に進めない」「事実をきちんと明らかにしてほしい」と悲痛な声が上がった。
業務改善命令は、江尻氏が理事の人選に専権を有していたことや理事会も異議を唱えることができなかったいわき信組の内情を指摘し、「およそガバナンスが機能していない」と断じた。
江尻氏は常務理事などを歴任し、2004(平成16)年11月から2022年6月まで理事長を務めた。理事長退任後後も、2024(令和6)年11月に不祥事が発表される直前の昨年10月末まで会長職を担い、組織への影響力を持ち続けた。約15年前まで同信組で働いていた元職員は江尻氏について、「情に厚く勉強熱心だったが仕事には厳しかった。言うことに反対できない空気が組合内にあった」と振り返り、江尻氏の指示に対して職員が従属的になっていたと明かした。
かつて融資を受けていた市内の企業経営者の男性は同信組の過去の合併に触れ、「合併により生まれた派閥間で責任を押し付け合っていて、最後は強いリーダーシップがある江尻氏が全てを決めていた印象がある」と語った。
設立当初から同信組と取引があるという市内の50代会社員男性は「旧経営陣の体制が長過ぎたのだろう。一連の不祥事については本当に驚いている」と困惑した様子。「このままでは本当に顧客や取引先が離れていってしまう。企業体質、ガバナンスの在り方を見直して新たな船出をしてほしい」と求めた。
市内で木材関係の会社を営む50代男性は今年の初めごろ、本多洋八理事長から手紙を受け取った。不祥事に対する謝罪の言葉と信頼回復に向けて取り組む決意などがしたためてあったという。男性は「自分の口座も不正に使われたかもしれないと思うと不安な気持ちになる」としながらも、「企業に寄り添ってくれる金融機関として、なくならないでほしい」と語った。
いわき商工会議所の小野栄重会頭は「残念極まりないことだ。市内にはいわき信組をメインバンクとしている企業がたくさんあるため、影響を与えないようにしてもらいたい。うみを出し切り、職員一丸となってゼロからやり直してほしい」と語った。■文書で謝罪、顧客に説明なく
いわき信組は29日、ホームページで業務改善命令を受けての文書を公表し、「事態を重く受け止め、組合員はじめ関係者の皆様にご迷惑をおかけいたしましたことを深くおわび申し上げます」と謝罪。経営監視強化に向け、有識者を構成員とする第三者機関を設立することなどを表明した。
一方で、顧客への直接の説明などはしておらず、総代に対しては、6月3日と5日に市内で開かれる地区別総代懇談会で内容を説明する方針という。同信組は業務改善命令が出た後の福島民報社の取材に対しても、「現時点で個々の事案については回答を控える」と述べるにとどまった。信組をよく利用している市内の40代女性は「真相を早く知りたい。不安で仕方ないので、説明責任を果たしてほしい」と注文した。