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福島県のいわき信用組合(本部・いわき市)による迂[う]回[かい]融資など一連の不祥事を巡り、財務省東北財務局は29日、同信組に銀行法に基づく業務改善命令を出した。顧客の承諾を得ずに開設した口座からの不正な融資なども事実として認定。長期間の隠[いん]蔽[ぺい]だけでなく、問題が明らかになって以降も事実と異なる内容を財務局に説明した悪質性などを問題視した。法令順守よりも上層部の意向などを優先し、異議を唱えなかった企業風土や管理体制の不備など組織体質も批判した。処分を受け、同信組は同日、本多洋八理事長を含む経営陣の大幅入れ替えなどの経営改革方針を発表した。
いわき信組は昨年11月、江尻次郎元会長ら旧経営陣が大口取引先の資金繰り支援のため迂回融資をしていた不祥事などを公表。東北財務局が報告徴求命令を出し、聞き取りや資料から事実関係を裏付け、今回の処分に至った。
同財務局が公表した主な処分理由は【表】の通り。事業実態のない企業や、顧客の承諾を得ずに開設した複数の口座を経由する不正融資について、秘密裏に管理する役員を引き継ぐなど組織的、長期的な隠蔽を図っていたことを明らかにした。迂回先には1度当たりの融資を少額に設定し、内部の査定基準に抵触しない貸出金額にするなどして不正の発覚を逃れるための巧妙な手口も取っていたという。
元職員の横領によって生じた多額の損失を迂回融資だけではなく、組合の現金で補[ほ]填[てん]した事実も新たに確認。調査に対して当初、旧経営陣と一部の現理事の間で意図的に口裏を合わせ、報告しなかった上、一連の不祥事に対するその後の内部調査も実施したとうその説明をした点も強く問題視した。
組織的な課題について、理事の人選などに専権を持っていた江尻元会長が「組合内で絶対的な存在になっていた」と指摘。理事会が経営の監視の役割を果たせなかった点などを批判した。支店長・融資担当者も不正融資の際に規定違反の事務処理を行うなど経営陣の指示を受け入れた内部管理態勢の不十分さも挙げた上、「組織全体に順法精神が根付いていない」とも断じた。
同財務局は6月30日までに経営監視や企業風土の改善などについての業務改善計画の提出を命じた。今月30日に同信組の第三者委員会が調査結果を公表する。■監督の金融庁
「重く受け止める」
東北財務局が県内の預金取扱金融機関に業務改善命令を下したのは3月の県商工信用組合(本店・郡山市)に続いて今年で2度目となる。監督官庁の金融庁によると、いわき信用組合に対しては、決算時期の経営状況のモニタリングに加え、公的資金注入に伴う半年に1度の「履行状況報告」を課していたが、今回の一連の不正は確認できなかった。同庁は「監督庁として重く受け止めている。事実解明から防止対策につなげていく」としている。
同信組は6月13日予定の総代会・理事会で経営陣を大幅に刷新し、全国信用協同組合連合会(全信組連)から新たに役員を招[しょう]聘[へい]する見通し。全信組連は「人的支援を通じて改革を全力で後押しする」とコメントした。
金融機関経営に詳しい東洋大国際学部の野崎浩成教授は、2019(令和元)年12月に金融庁が融資状況を厳格に点検するための「金融検査マニュアル」を廃止した点を挙げ、「(発覚の遅れは)重箱の隅をつつく方式ではなく、経営の本質をチェックする体制に移行したことが背景にあるのではないか」と分析する。【いわき信用組合への業務改善命令主な処分理由】(1)迂回[うかい]融資をはじめとする一連の不祥事や経営陣の長期的な隠蔽[いんぺい]、東北財務局への事実と異なる報告(2)理事会が前会長に異議を唱えることができないなどガバナンス機能の不備(3)上意下達を絶対とするなど組織全体の法令順守意識の欠如(4)不正融資の決裁から実行などの過程で担当者が見過ごすなど内部管理態勢の不備(5)内部監査の機能不全※業務改善命令
金融機関で健全性や適切性の観点から重大な問題が生じたり、自主的な取り組みで業務の改善が見込めなかったりする場合、財務省の地方出先機関に当たる財務局などが法令に基づいて下す行政処分の一つ。改善が必要な点を指摘し、業務改善計画の提出を求める。金融機関は計画の進捗[しんちょく]を定期的に財務局などに報告しなければならない。悪質な場合は、処分のより重い業務停止命令や金融機関の免許取り消しがある。※いわき信用組合
1948(昭和23)年、江名町信用組合として設立。1957年に磐城信用組合、1966年にいわき信用組合にそれぞれ名称を変更した。2002(平成14)年につばさ信用組合と合併。今年3月末現在の預金残高は1938億5100万円、貸出残高は1193億7800万円、自己資本比率(暫定)は19.45%、自己資本(同)は241億3千万円、組合員数(同)は4万1636人、店舗数は15店、常勤役職員数は175人。