【変わる塀の中】(中) 「脱受け身」へ手探り 改善指導多様な試み 刑務官の不足対応急務 福島刑務所

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【変わる塀の中】(中) 「脱受け身」へ手探り 改善指導多様な試み 刑務官の不足対応急務 福島刑務所

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「線に沿って色を塗ってください」
「自分の好きな色を使っていいですよ」
福島市南沢又にある福島刑務所の工場内で5月上旬、緑色の作業用衣服に身を包んだ高齢受刑者25人ほどが塗り絵に取り組んでいた。
出所後の社会復帰を円滑にするための改善指導の一環だ。手ほどきした女性教育専門官は「鉛筆を握る行為は箸を持つ動作に似ている。認知機能の維持に効果がある」と説明した。
6月1日の改正刑法施行に伴い創設される拘禁刑の処遇課程は24種類ある。このうち「高齢福祉課程」は認知症や身体障害があるおおむね70歳以上を対象にしている。――◆―◆―◆――
福島刑務所では5月1日現在、受刑者736人のうち65歳以上は161人(21・9%)で、5人に1人が高齢者だ。
福島刑務所の高齢受刑者のうち、自立した生活を送れる一部の人が拘禁刑下の高齢福祉課程に属する。同課程を昨年1月に試験導入し、刑務官の研修を重ねながら段階的に指導内容を拡充してきた。
同課程で受刑者は平日午前8時30分ごろから、洗濯ばさみの組み立てなどの刑務作業に当たる。4月までは週2回程度、各1時間弱を介護予防体操などに充ててきたが、拘禁刑の導入を見据え、5月からは体操や塗り絵、書写などの改善指導の時間を毎日2時間程度確保した。作業開始前の読書や植物の観察日記作成など身体・認知機能の維持に向けた取り組みを含めると、1日当たりの刑務作業と改善指導の時間はほぼ同じ割合となる。
指導に当たる女性教育専門官の一人は、刑務作業を中心とした現行の懲役刑が「受刑者の受け身体質を助長させてきた側面がある」と指摘する。こうした刑務所生活が染み付いたまま社会に復帰しても、「指示待ち人間となりがちで、仕事が長続きしない場合がある」という。生活に困窮し、再び犯罪に手を染め、刑務所に戻ってくる。負の連鎖を断ち切れない要因になっているという。――◆―◆―◆――
改善指導の内容は福島医大などの助言を受けながら練り上げてきた。塗り絵の一部はあえて手本を示さず、使用する色を高齢受刑者自らに考えさせる。粘土作品の創作や脳トレパズルにも挑戦させる。受刑者が「受け身体質」から脱却するための試みだ。
拘禁刑下では、従来の集団全体の規律重視よりも受刑者それぞれに合わせるよう心がける。社会復帰への意欲を喚起させるような指導にも注力し、刑務官らとの対話なども充実させる。
刑務官にとっては日常の刑務作業の指導・監督に加え、受刑者の特性に応じたさまざまな改善指導にも対応しなければならない。福島刑務所の現在の職員定数は242人で、昨年度に比べ3人減った。拘禁刑導入で業務負担が増えると指摘されているが、増員の見通しは現時点ではない。
「マンパワー不足の中、手探りで進めていくしかない」。高齢者の刑務作業を担当する渡部裕幸刑務官(48)は戸惑いを口にする。リハビリを充実させていくには、作業療法士や臨床心理士ら専門家の協力が不可欠だ。「受刑者がスムーズに社会に出られるよう、課題を見つけながら指導法を改善していきたい」と導入後を見据えた。(社会部キャップ・服部鷹彦)