【変わる塀の中】(下) 再出発 官民で支援を 出所後どう寄り添う 再犯の背景共有不可欠 福島刑務所

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【変わる塀の中】(下) 再出発 官民で支援を 出所後どう寄り添う 再犯の背景共有不可欠 福島刑務所

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6月1日施行の改正刑法で創設される拘禁刑は懲罰から改善更生に軸足を移し、受刑者の再犯防止と円滑な社会復帰に重点を置く。塀の中での処遇や更生に向けた改善指導は大きな転換となるが、塀の外での再出発を後押しする体制の強化、社会全体の受け入れ意識の醸成は依然として課題だ。
福島県内では2023(令和5)年度、法務省の「協力雇用主」に登録した企業557社のうち実際に出所者を雇用したのは18社にとどまる。
「出所者を受け入れるとトラブルはつきものだが、更生してほしいとの思いで雇用し続けている」
県北地方の建設業者は2017(平成29)年1月から毎年、出所者を受け入れている。自社の人手不足を補い、受刑者の社会復帰を後押しするため協力雇用主に登録した。これまでに窃盗や薬物犯罪などの元受刑者を延べ約50人雇い入れた。今では全社員20人ほどの約半数を占める。
大半は人生をやり直そうと懸命に仕事に励むが、一部は数日で雲隠れし再び犯罪に手を染める。自社の備品を無断で売却されたこともあり、「度々、裏切られてきた」という。
こうしたリスクを背景に、協力雇用主の登録は進んでいない。同社社長は拘禁刑が導入されてもなお「塀の中の受刑者は時代の流れに取り残されている」と指摘する。出所前に「社会的な教養の指導、実践的な職業訓練を充実させなければ、受け入れ企業は増えない」と訴える。――◆―◆―◆――
とりわけ高齢者や障害者は出所後、自力で生活を安定させるのが難しい。県地域生活定着支援センターは、こうした受刑者を出所前からサポートしている。出所後に住みたい、福祉サービスを受けたいと希望する自治体との調整を仲立ちし、受け入れ先となる福祉施設との交渉を担う。
センター事務室は福島市の県総合社会福祉センター内の一角にある。受刑者の支援には1人当たり半年から1年ほどかかる。年間の支援対象は50人前後だが、対応する職員は少数精鋭の5人のみだ。
今関稔子センター長は拘禁刑の目的である一人一人に寄り添った処遇は「塀の中で終わりではない」と話す。「受刑者が、なぜ再び罪を犯さなければならなかったのか。その背景を刑務所内で十分に共有しなければ再犯は止まらない」と強調する。
こうした声を受け、福島刑務所の井上裕道企画調整部長は「再犯者を含め、収容前の処遇調査を徹底する」と襟を正す。心理分野に精通した職員が中心となり、罪を犯した背景や受刑者の成育歴などを調べ、結果を踏まえ一人一人に適した処遇課程に割り振るという。「受刑者の分析を強化し、職員間で共有していく」と述べた。――◆―◆―◆――
刑事法学が専門の高橋有紀福島大准教授は、「懲らしめ」の意味合いが強い刑務作業を中心とした現行刑法では、受刑者が社会に出た後の再出発をイメージしにくいと指摘する。
出所後の支援体制を十分に理解せずに社会復帰することで、路頭に迷い再犯を繰り返す―という悪循環に陥りやすいという。「拘禁刑下では個々に向き合う時間が増える。受刑者ごとの最適な支援の在り方を考える契機となる」と変革に期待する。(社会部キャップ・服部鷹彦)