いわき信組不正融資 堕ちた信用(上) いびつな「正当化」まん延 「中小、家族守るため」 幹部ら正常な感覚まひ

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いわき信組不正融資 堕ちた信用(上) いびつな「正当化」まん延 「中小、家族守るため」 幹部ら正常な感覚まひ

福島のニュース


総額247億円を上回る巨額の不正融資が明るみに出た、いわき信用組合(本部・福島県いわき市)は、違法行為を正当化するいびつな企業風土が根付き、腐敗につながった。「組合を守るためには仕方ない」「自分の生活や家族を守るため」。第三者委員会の調査報告書には、自己保身に走り、正常な感覚がまひした幹部や一部の職員らの心理状態が生々しく記されていた。不正の温床となった信組の内情と再生への課題を探る。
第三者委員会と本多洋八いわき信組理事長の記者会見から一夜明けた31日、いわき市内の店舗では預金を引き出す顧客の姿が見られた。「会見を見て、預けているのが怖くなった」。預金を下ろした70代女性は眉をひそめながら、足早に店舗を後にした。40代男性は「もはや犯罪。本当に信組が生まれ変われるか不透明だ」と不正が長年にわたって隠蔽[いんぺい]されていた組織の体質そのものへの不信感を隠さなかった。






「不正のトライアングル」。米国の犯罪学者ドナルド・レイ・クレッシーが提唱した理論が、同信組の内情にぴったり符合する。
クレッシーは、不正行為が発生してしまう要素として「機会」「動機」「正当化」の三つを挙げる。「機会」は、不正を行うための手段や環境を指す。同信組に照らせば、金庫の鍵の管理がずさんなことや、内部監査をする監査部長が不正行為に関与していたことなどが当てはまる。不正融資の「動機」は、大口融資先の経営不振だった。
そして、不正行為をする理由を自分自身に言い訳するのが「正当化」だ。顕著にこの要素が現れている事例がある。第三者委のヒアリングに、元会長の江尻次郎氏は「いわきの中小企業のため組合がつぶれるわけにはいかない」といった趣旨の回答をしたという。不正融資を実行した理由について、他の企業を守るためという大義名分を掲げたかっこうだ。
江尻氏を含む役員から不正融資の実行を指示された職員も、この「大義名分」に基づいた指示を受け、やむなく協力。企業統治が機能不全に陥り、組織ぐるみで不正を正当化するモラルの悪化がまん延していった。






本多理事長は会見で、不正融資を5年前に江尻氏から打ち明けられたと明らかにした。自らも不正融資の決裁を重ねていたことについて「特別な考えを持ちながらやっていたかといえば、必ずしもそうではなかった。強く後悔している」と述べた。
今後の改革で組織が正常な感覚を取り戻せるか、厳しい目が注がれている。