福島のニュース
少子化による影響は経済面だけにとどまらない。共同体の弱体化や地場商店の閉店、公共交通網の縮小、高等教育機会の減少…暮らしの各方面に及ぶ。広い県土に数ある伝統行事もその一例だ。風土やなりわいに根差した習俗や祭礼は、郷土への愛着や世代間の交流を育んできた。担い手不足が深刻化する中、在り方を見直して残そうとする動きがある。伝統継承の現場を出発点とし、「縮む地域」で何が起きているかを探る。
福島県会津美里町は会津盆地の南西に位置する。新緑の山々を遠くに望み、美しい田園が広がる一帯には、農耕文化に基づく四季折々の風習や祭礼が残る。尾岐[おまた]地区に江戸期から伝わる「高橋の虫送り」は、穀倉地帯ならではの風物詩として親しまれてきた。
土用の入り前後に当たる7月19日。虫を納めた御輿状の「虫籠[むしかご]」を担いで歩き、供養して橋から宮川に流す。病害虫から稲を守り、豊穣[ほうじょう]を願う行事だ。1966(昭和41)年に旧会津高田町の重要無形民俗文化財に指定された。
地元の子どもたちが虫籠作りや生花・短冊の飾り付け、歌の披露など、開催に欠かせない役割を果たしてきた。ただ、近年は集落の子どもは数人にまで減り、青年団に代わって保存会を担ってきた区長たちも高齢化。一時は2023(令和5)年夏限りでの終了が危ぶまれた。
「虫送りは自然との共生や地元への愛着を学ぶ機会だ。何とか残せないか」。動いたのはこの年、西本区長だった片山紀彦さん(68)だ。思いを共有する住民や知人に声をかけた。有志の団体「高橋の虫送りをつなぐ会」を設立し、代表に就いた。昨夏は先輩の助言を受けて虫籠作りや供養を催し、命脈を保った。
県内の民俗芸能団体を対象に県が昨年度、行った実態調査で「活動中」と答えた団体は、5年前の前回から減少傾向にある。県文化振興課によると、休止の理由に「継承者不足」「少子高齢化」を挙げる例が多い。次世代の先細りが伝統の先行きに影を落としている。
横浜市出身の片山さんは2001(平成13)年に妻玲子さん(68)の故郷、会津美里町に移った。当初は「見るだけ」だった虫送りに次第にひかれ、関わりを深めた。21人で始まった「つなぐ会」は37人に増え、20代や30代も目立つ。本番まで2カ月を切った5月25日は運営委員が集い、当日の流れや準備物、役割を話し合った。若手からも交流サイト(SNS)での発信などの提案が相次いだ。
「つなぐ会」が虫送りを守っていく上で頼みにするのは、尾岐を学区に含み、約160人が通う宮川小との連携だ。
郷土教育を重視し、3~6年生が総合的な学習で地域の伝統文化を学ぶ。探究心を尊重するため、「どんな伝統を学びたいか」という希望を聞いて学習計画を立てる。6年生29人は4年時にも携わった行事が途絶えかけたと聞き、「何かできないか」と虫送りに声を上げたという。
30日は片山さんらが学校を訪ね、教員と学習内容を打ち合わせた。虫籠製作の見学や竹やり作り、周知ポスターの準備など、児童の関わり方を話し合った。伊達明美校長は「古里への愛着を育む有意義な活動、伝統をつなぐ1年にしたい」と参画に理解を示す。
片山さんはいずれは若い世代にバトンを託すつもりだ。軌道に乗せるには経費や手間が課題になるとみて重荷にならない在り方を模索する。「数は少なくとも子どもがいる限り、土地の伝統を伝えるのが大人の責任だ」と活動の意義を強調した。