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東京電力福島第1原発事故で津波対策を怠り会社に損害を与えたとして、東電の株主42人が旧経営陣5人に対し、総額約23兆4千億円を東電に賠償するよう求めた株主代表訴訟の控訴審判決で、東京高裁(木納敏和裁判長)は6日、故勝俣恒久元会長ら4人に13兆円余りの賠償を命じた一審判決を取り消し、株主側の請求を棄却した。巨大津波を具体的に予見することは困難だったと判断した。株主側は上告する方針。
旧経営陣は昨年10月に84歳で死去した勝俣元会長の他、清水正孝元社長(80)、武黒一郎元副社長(79)、武藤栄元副社長(74)、小森明生元常務(72)の5人。勝俣氏を巡っては相続人が訴訟を引き継いでいる。
主な争点は旧経営陣が巨大津波の襲来を予見できたか(予見可能性)と、事故を防げたかどうか(結果回避可能性)だった。
木納裁判長は、事故を防ぐためには原発の運転を停止して津波対策工事を行うよう指示する必要があったと言及。運転停止を正当化できる信頼性のある根拠があれば、旧経営陣の予見可能性を認定できるとした。その上で、国の機関が2002(平成14)年に公表した地震予測「長期評価」について「尊重すべきものだった」としながらも、政府の中央防災会議や本県などの防災対策で検討対象とされなかった点などから「運転停止を義務付ける程度の根拠としては必ずしも十分ではない」と述べた。
東電は2008年、東電子会社から長期評価を基に福島第1原発に最大15・7メートルの津波が到達するとの試算結果の報告を受けていた。木納裁判長は、原子力部門の「ナンバー2」だった武藤氏が最初に聞いた報告は、短期間のうちに巨大津波が襲来する「切迫感や現実感を抱かせるものでなかった」と指摘。長期評価の信頼性の検討を外部の土木学会に依頼した判断は、不合理だったとは言えないとした。武藤氏以外の旧経営陣4人に対しても切迫感を抱かなかったのはやむを得ないとし、「津波の予見可能性は認められない」と結論付けた。
2022(令和4)年7月の一審判決は、長期評価の信頼性を認定。巨大津波を予見でき、事故は避けられる可能性があったとした。津波対策を先送りした旧経営陣について「重大事故が生じないよう最低限の津波対策を速やかに指示すべきだったが、取締役としての注意義務を怠った」として、小森氏を除く4人に賠償を命じた。旧経営陣4人と株主側の双方が控訴していた。
旧経営陣の一部が業務上過失致死傷罪で強制起訴された刑事裁判では、最高裁が3月に「予見可能性はなかった」として無罪が確定した。株主代表訴訟の一審判決が、旧経営陣個人の賠償責任を認めた唯一の司法判断だった。※株主代表訴訟
取締役ら役員の違法行為や経営判断の誤りで、株式会社が損害を被ったにもかかわらず、会社が役員に法的責任を追及しない場合、株主が代わりに役員らに賠償を求める訴えを起こせる制度。会社法で規定されている。一定要件を満たす株主が会社に「提訴請求」を行ってから60日以内に会社が訴えを起こさない場合、株主が原告として提訴できる。裁判で被告の責任が認められた際は会社に対し賠償する必要がある。