誰も責任取らないのか 東電原発事故株主代表訴訟高裁判決 傍聴席から怒号 逆転勝訴へ「闘い続ける」

  • [エリア] 田村市 大熊町
誰も責任取らないのか 東電原発事故株主代表訴訟高裁判決 傍聴席から怒号 逆転勝訴へ「闘い続ける」

福島のニュース


東京高裁で6日に言い渡された東京電力福島第1原発事故を巡る株主代表訴訟の判決は、株主側の逆転敗訴だった。私語を慎まなければならない傍聴席からは怒号が飛び交った。閉廷後の集会で原告らは「誰も責任を取らないのか」「再び重大事故を招くつもりか」と憤りをあらわにした。最高裁での逆転勝訴に向け、闘い続ける覚悟をにじませた。
木納敏和裁判長が主文を告げると、法廷内に「えーっ」とどよめきが起こった。判決理由の読み上げ後も、傍聴席と原告席からは「認められない」「おかしいだろ」との声が上がった。東京高裁前では、硬い表情の原告らが「不当判決」と書かれた旗を掲げ、集まった支援者は無念さに顔をゆがめた。
「過酷な事故を起こしておきながら、経営陣誰一人として責任がなかったという判決は信じられず、許せない」。株主として原発廃止を提案し続けている原告代表の木村結さん(72)=東京都=は声を張り上げた。木納裁判長らは昨年10月の進行協議期日で第1原発構内を視察していた。被害実態を見たことで「過酷な被害の現状を理解してもらったはず」と勝訴に手応えを感じていた。だが、その思いは打ち砕かれた。「(被災者に)明るい報告ができず残念だ」と目を閉じた。
同じく原告の浅田正文さん(83)は「言葉が見つからない」と声を絞り出した。原発事故前、田村市都路町の自然にほれ込み東京都から移り住んだ。野菜栽培など自給自足の穏やかな暮らしは事故で一変した。着の身着のまま、知人を頼り金沢市に避難した。国内で原発の在り方を考えるきっかけにしてほしいとの思いで原告団に加わった。「国民の命、安全を大事にしてほしいとの思いに逆行している」と悔しがった。
世界最悪レベルの原発事故が起きたにもかかわらず、誰も個人責任が問われない可能性が出てきた。弁護団は電力事業者が過酷事故を起こした場合、経営者の責任意識が薄れるとの懸念を抱く。株主側代理人の河合弘之弁護士は「再び原発事故が起きても許してもらえると言っているようだ」と苦言を呈した。■「思い酌み取ってほしかった」
福島県民落胆
巨額賠償を認めた一審東京地裁判決を覆した東京高裁の判断に、被災者や原発事故の影響を受けた県民は落胆した。
大熊町の無職伏見明義さん(74)は、2019年に町内に帰還するまで8年にわたる避難生活を余儀なくされた。「避難者の思いを酌み取ってほしかった」と思いを口にした。原告側は上告する方針を示しており、「(最高裁では)事故の責任を明確にしてほしい」と訴えた。
県原木椎茸被害者の会会長の宗像幹一郎さん(74)=田村市船引町=は原発事故前、良質な原木シイタケを露地栽培してきた。しかし、原発事故で生業を奪われ、原木シイタケは今も出荷制限が続く。自身が生きている間に栽培を再開できるのか不安を募らせている。だからこそ、旧経営陣に反省を求める。「福島県だけでなく原発を持つ地域にとっても重要だ」と考える。