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「蔵のまち」に眠る古書に光を―。福島県喜多方市のまちづくり会社「蔵の街喜多方」は市中心部のレトロ横丁商店街に古書店「二丁目の夕陽」を開く。市内の蔵などに収められている、古里の歩みや先人の営みを伝える古書を集め、新たな持ち主に引き継ぐ。空き店舗再生事業の一環。講演会などの行事も随時催す。市民や観光客が地域の歴史や文化、芸術に触れる「知の拠点」を目指す。関係者は今月中旬のプレオープンに向けて準備に励んでいる。
出店先は同市字2丁目にある元洋品店で、県の地域創生総合支援事業の補助を受けて改修した。当初は約5千冊を扱う予定だ。交流サイト(SNS)や折り込みチラシ、口コミなどで活動の趣旨を周知し、保管先に悩んでいる古書の持ち込みを呼びかける。「蔵の街喜多方」の取締役を務める佐藤弥右衛門さん(74)は「老若男女が対話を楽しめる、知識を深める場所にしたい」と意気込む。
扱う対象には法律・医療・歴史など各分野の専門書や雑誌、地域の出版物、電話帳、住宅地図など幅広いジャンルを想定。集まった本は店頭やオンライン、古本市に並べ、古書に関心のある人々に紹介する。当面は土、日曜中心の営業となるが、佐藤さんは「まずは閉じたシャッターを開けることが大事だ」と空き店舗をよみがえらせる意義を強調する。
店名「二丁目の夕陽」には「古書に光を当てる」との狙いと、通りを活気づけたいという願いを込めた。売り場の奥では本の朗読会や郷土史に関する座談会、会津地方ゆかりの人物を招いた講演会などを構想している。観光客が行き交う喜多方ラーメン神社に近い立地を生かし、市内外の多くの人々が触れ合う空間に育てていく。
喜多方市は近現代を通じて戦火や大火、地震など天災による被害が少なく、約4千棟の蔵が残る。長い年月を経て現存する蔵や旧家にはまちの歴史や時代ごとの人々の暮らしぶり、地域に伝わる文化、民俗などに関する本や印刷物が数多く保管されている。ただ、老朽化した建物を解体すれば中の物も散逸しかねない。蔵や空き店舗の再生に取り組む「蔵の街喜多方」にも古書の扱いを迷う声が寄せられていた。
同社は郷土の記録と記憶が刻まれた史料を将来に残す仕組みとして、古書店に着目。民俗学に詳しい元県立博物館長の赤坂憲雄さん(72)を顧問に招いた。赤坂さんが手がける雑誌「東北学」を編集している出版社「荒蝦夷」(仙台市)からも古書を買い付ける。
赤坂さんは喜多方について大正期、芸術の普及や芸術家の支援を目的に地元有志が「喜多方美術倶楽部」をつくった過去があり、文化や芸術と親和性の高い土地と評価。「気軽に本を手に取り、文化や芸術に触れる機会ができれば、人々の日常が豊かになる」と古書店の効果を期待している。