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福島県須賀川市中心部の翠ケ丘公園で、松枯れの被害が後を絶たない。原因となる松くい虫の生息域が温暖化の影響で北上しているためとみられる。市の木のアカマツなどの自然林がある公園は伝統的な火祭り「松[たい]明[まつ]あかし」の会場になるなど市の象徴として大勢に利用されており、倒木や景観悪化などを防ぐための対策が急がれている。ただ、公園を管理する市は住宅街の近くで薬剤散布はできないため、伐採などで被害の拡大を抑える方針だが、費用負担が重くのしかかる。専門家は地域全体で危機感を持って対策を急ぐ重要性を指摘する。
深緑の季節を迎えた翠ケ丘公園。広さ約30ヘクタールの敷地にある自然林で2~3年ほど前から茶色い枯れ葉のアカマツが目立ち始めた。徐々に数は増え、市によると昨年度の被害は約120本に及んだ。
「一刻も早く適正に処理しなければ、公園内の松は全て枯れてしまう」。樹木医の熊谷建一さん(75)=郡山市=は事態の重さを語る。松枯れは線虫「マツノザイセンチュウ」を運ぶカミキリムシが木に侵入するのが主な要因。枯らした後に卵から成長した成虫が健康な松に移ることで被害を広げ続ける。樹勢が弱まった木は強風や大雨による枝折れや倒木の危険性が高まる。松などの針葉樹は挿し木による再生が広葉樹より難しく、熊谷さんは「被害前の状況に戻すには70~80年かかる」とみる。
日頃から多くの市民が広場や遊具、博物館などを利用する地域のシンボルの公園だけに市は対策を急ぐが、近隣に住宅が多く、薬剤散布は難しい。当面は公園利用者の安全確保のため、通路沿いの松の伐採に力を入れる。ただ、幹の太さで変動するが、焼却までの費用は1本10万円程度かかり、財政的な負担の面から作業が思うように進まない現状もある。市都市計画課は「人に無害で樹木の病害を予防する薬品の使用も検討したい」と効果的な対応を模索している。■福島県被害全国3位
温暖化で害虫生息域拡大
林野庁などによると、温暖化の影響で、冷涼とされてきた地域や標高の高い場所にもカミキリムシの生息域が広がり始めている。2023(令和5)年度の県内の松枯れの被害量は都道府県別で全国3位の約2万6千立方メートルだった。
浜通りの伝統行事「相馬野馬追」の主会場・南相馬市の雲雀ケ原祭場地は約2割の松が被害に遭った。市内の山林や海沿いでも松枯れが見られるという。郡山市湖南町の猪苗代湖畔では樹勢が弱った182本が見つかり、市は昨年度このうち74本を伐採した。
松枯れを研究する明治大農学部准教授の新屋良治さん(42)=線虫学=は「行政は問題の重大性を広く周知する必要がある」と訴える。松枯れは山間部での土砂崩れ、沿岸部での塩害のリスク増加などにもつながると指摘。福島県で被害が多い民有林での対策には所有者の合意を十分に得る必要があるため「住民の協力がなければ防除は難しい」とし、地域挙げての対応が不可欠としている。