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福島県双葉町の伊沢史朗町長は10日開会した町議会6月定例会の一般質問で、東京電力福島第1原発事故に伴う帰還困難区域を巡り、9行政区の一部に設定した特定帰還居住区域のうち、下長塚、三字、羽鳥の3行政区の対象地域について、2026(令和8)年度中の避難指示解除を目指す考えを示した。5市町に設定されている特定帰還居住区域の解除目標時期が示されるのは初めて。除染や家屋解体の進捗状況などを踏まえて判断した。町は年内にも3行政区の立ち入り規制を緩和し、解除に向けた環境整備を加速させる方針。
解除を目指す範囲は3行政区で計約110ヘクタール。各行政区とも2022年8月に避難指示が解除された特定復興再生拠点区域(復興拠点)、特定帰還居住区域、いずれにも該当しない地域が混在している。町は同一行政区に居住できるエリアと戻れない区域があることによる「地域の分断」を解消し、帰還意欲を高めるためにも早期に避難指示を解除すべきだと判断した。
双葉町の特定帰還居住区域は現在9行政区の計約530ヘクタール。町と政府が復興拠点から外れた約420世帯を対象に2022年8月~翌年3月に帰還意向調査を行い、定めた。帰還意向を示した約210世帯の宅地や周辺道路、集会所など生活圏の除染が進んでいる。
下長塚、三字両行政区の計約50ヘクタールは環境省がいち早く2023年12月から除染や家屋解体を始め、羽鳥行政区でも昨年春ごろから作業が進んでいる。3行政区の除染は4月25日時点で15%が完了。平均空間放射線量は国が避難指示解除基準の一つとしている年間積算線量20ミリシーベルト(毎時3・8マイクロシーベルト)を下回っている。
町は解除に向け、年内にも計画している立ち入り規制緩和で3行政区のバリケードを開放する。住民が許可証なく自由に入れるようにし、帰還準備を進めてもらう。必要に応じて準備宿泊も検討する。夏にも規制緩和に関する住民説明会を開き、住民の意見を把握した上で、インフラ整備を進め、国や県と具体的な解除日程を詰める方針。
現在、特定帰還居住区域の追加認定を視野に2度目の帰還意向調査を実施しており、3行政区の対象住民が新たに帰還意向を示した場合、解除範囲の拡大も検討する。
町内の居住人口は現在約180人で、復興拠点の解除から2年9カ月が経過して頭打ちになっている。原発事故に伴う被災市町村で避難解除が最も遅く、他地域と復興の段階が異なる。町は今回の解除により居住可能なエリアを広げ、居住者の増加やにぎわいの創出につなげたい考えだ。
伊沢町長は「除染など必要な取り組みを早期に進め、一刻も早く古里に帰還したいという町民の思いに寄り添う」と述べた。※特定帰還居住区域
東京電力福島第1原発事故に伴う帰還困難区域のうち、特定復興再生拠点区域(復興拠点)から外れた地域の避難指示を解除するために設ける区域。2023(令和5)年成立の改正福島復興再生特別措置法に基づき創設された。地元市町村が対象となる住民に帰還意向調査を実施。帰還意向を持つ住民の生活圏など除染範囲を定めた「復興再生計画」を策定し、国の認定を経て除染や家屋解体が国費で行われる。現在、南相馬、富岡、大熊、双葉、浪江の5市町に設定されている。政府は「2020年代に希望者全員が帰還できるようにする」との方針を掲げている。