福島のニュース
10代の畜産農家が福島県葛尾村で奮闘している。今春、船引高を卒業した吉田隼さん(19)は、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興を期し、父健さん(50)が経営する畜産会社「牛屋」で働き始めた。村は原発事故に伴う居住制限区域などが解除されてから12日で9年。「村の活気を取り戻したい」。地域活性化への貢献を胸に父の背中を追う。
午前7時、牛の餌やりから隼さんの一日が始まる。夜は牛舎の見回りなど慌ただしい毎日を過ごす。「日々学ぶことばかり」。この道約30年の健さんから手ほどきを受け、師と仰ぐ。
畜産農家の家系で育ち、幼いころから牛に接してきた。4歳の時に震災と原発事故を経験。健さんは三春町などへの避難後も田村市で畜産経営を続けた。父の姿を見て自然と畜産農家を志すようになった。
牛屋は自社で育てた経産牛や羊肉をブランド化し、各地への出荷の他、村内のイベントで提供している。隼さんも就職前から催しを手伝い、「おいしい」と話す住民の笑顔が忘れられなかった。「葛尾をさらに元気にしたい」と迷わず畜産の道に進んだ。
村は復興へ歩む一方、牛を扱う畜産農家は今月1日現在、個人・法人含め15軒と震災発生前の1割強にとどまる。健さんは「担い手確保が難しい中、自ら畜産の道を選んでくれた」とわが子の決断に目を細める。
隼さんは会社や地域に経済効果を生み出す畜産農家になるのが目標だ。「おいしい牛や羊の肉を届け、多くの人が葛尾を知るきっかけにしたい」と村を支える産業の未来を思い描く。