少子化を生きる ふくしまの未来 第8部「困難の先に」(1) 官民連携(上) 流出招く男女格差

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少子化を生きる ふくしまの未来 第8部「困難の先に」(1) 官民連携(上) 流出招く男女格差

福島のニュース


厚生労働省が公表した2024(令和6)年の人口動態統計(概数)では、国内で同年に生まれた子どもの数(出生数)は68万6061人だった。70万人割れは国立社会保障・人口問題研究所(社人研)による推計より15年早い。福島県の出生数は8216人と9年連続で減り、合計特殊出生率も最低の1・15と都道府県別で下位に低迷。全国では回復した婚姻数も下げ止まっていない。少子化の速度や影響をいかに緩め、地域を将来にわたり持続させていくか。県内外の特色ある取り組みから打開の道を探る。■意識改革は経営者から
県は今年度、少子化・人口減少対策として企業や団体、金融機関などの若手による「官民連携・共創チーム」を組織し、全県や地域ごとの課題を把握する。少子化の要因となる女性ら若者の流出を抑制するには、民間との危機意識の共有が必要とみるからだ。
兵庫県豊岡市も同様の課題意識を持ち、8年前から官民連携を進めてきた。女性流出につながるとされる「ジェンダーギャップ(男女格差)」の解消を目指す取り組みを続けており、全国から注目を集めている。
但馬地方の中心都市だが、人口は1市5町が合併した2005(平成17)年の9万人弱から1万人以上減った。男女格差を憂慮した発端は、独自指標「若者回復率」だ。進学などで市を離れた10代の転出超過数に対し、就職などで市に戻った20代の転入超過数の割合を示す。2010~2015年の推移では男性の52・2%に対し、女性は26・7%にとどまった。
男女の「戻り幅」の差には、男性中心の社会の在り方が影響しているのではないか―。2018年、中貝宗治市長(当時)の下で動き出した。
最初に手がけたのは就労環境の見直しだ。「ワークイノベーション推進会議」を設立。「性別を問わず働きやすく、働きがいある職場」を志す企業を募り、16事業所で始めた。
「人口減を企業のせいにされても困る」。推進会議の会長に就いた豊岡商工会議所の岡本慎二会頭(67)は当時の困惑を振り返る。精密ばねを製造する東豊精工を営むが、社内の男女差には注目してこなかった。推進会議の講演や会合に通い、認識が変わった。従業員約120人の役割を見返すと、機械で製品を作るのは男性で、計量、検査などの業務は主に女性が担う。役割や待遇に「固定観念」が横たわっていた。
初の男性育休取得者を出した。女性による「お茶出し」をやめ、キャリア形成などを学ぶ市の講座に派遣した。2022年に人事評価を見直し、公正・公平性を高めた。2年前に女性4人が国家資格「金属ばね製造技能士」の検定に初めて合格し、その後も合格者が続く。
木製ハンガーを製造・販売する中田工芸の中田修平社長(46)は「自分の思いと一致した」と推進会議に創設から名を連ねた理由を語る。第2子誕生を機に2019年に育休を1カ月取得し、「ペアレント休暇」を設けた。人事評価を見直し、ハラスメントを防ぐ姿勢を掲げた。商品の高付加価値化と環境改善を両輪で進め、豊岡に縁のない女性が入社するようになった。
従業員65人のうち、女性の割合は約1割から4割弱まで増え、語学力を生かして海外営業などで活躍している。「性別によらず、能力や意欲に応じて活躍の機会を提供する」と話す。
推進会議の構成メンバーは124まで増えた。製造や建設、小売など業種も幅広く、多くは中小企業だ。「地方には女性が経験や知識を生かせる仕事は少ない」という〝定説〟を覆そうとする輪は着実に広がっている。