利き腕の筋力低下… 病に屈せず挑む夏 福島県会津高野球部主将 原武さん(18)

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利き腕の筋力低下… 病に屈せず挑む夏 福島県会津高野球部主将 原武さん(18)

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福島県会津高野球部の主将原武さん(18)は利き腕が病に侵されるハンディキャップを抱えながら、高校球児最後の夏に挑む。昨年春、右腕の筋力が著しく低下する平山病と診断された。ボールやバットを握れなくなり、生きがいとしている野球を諦めかけた。しかし最後までやり遂げたいと心を奮い立たせ、仲間の支えで猛特訓。左投げに転向し、レギュラーの座を射止めた。「チームのため、自分ができることをやり切りたい」。万感の思いでグラウンドに立つ。■左投げ転向猛特訓
仲間、恩師の支えで
小学1年で野球を始め、中学で投手や内外野手として活躍した。右腕に違和感を覚え始めたのは中学2年の冬だった。握力が十分に入らなくなった。会津高入学後、症状はさらに悪化。1年の冬には、ペンすら持てなくなり、日常生活がままならなくなった。高校2年の春、完治が難しいとされる平山病と診断された。
「そんな病気だったのか…」。深刻な病状をある程度、覚悟していたからか、ショックは不思議と大きくなかった。むしろ、病の正体が分かり、すっきりした気持ちすらあった。部活動を辞めようとは、全く考えなかった。
ただ、同級生が力を伸ばす姿を複雑な心境で見つめた。左腕で競技するためのトレーニングを重ねたが思うようにできず、もどかしさが募った。新チームで主将に任命されると、プレーで仲間をけん引できないふがいなさが、重圧として心に重くのしかかった。
選手を続けるか、マネジャーとしてチームを支えるか―。悩み、苦しんだ。「一度、野球から離れよう」。皆川俊哉監督(33)と相談し、冬場に約1カ月休部した。
ひたすら自分と向き合った。葛藤を重ね、中学時代から付き合いのある指導者に相談した。諦めずに努力するよう励まされたことが、プレーの続行を後押しした。
迷いを振り切り、これまで以上に練習に集中できるようになった。ボールの握りや腕の振り、軸足の使い方―。基礎的な動きから見直した。「投手としてプレーできるよう、一緒に頑張ろう」。早朝の自主練に付き添ってくれた同級生の優しさが、さらなる励みになった。投手出身の皆川監督も投球スタイルを共に模索してくれた。
左手にはめたグラブを捕球後に素早く外し、左手で送球するスタイルを確立。打撃は右手をバットに添え、左手だけに力を入れて振る。打球を遠くまで飛ばせない分、内野手の間を抜く低く強い当たりを心がけた。投手としての制球力も身に付け、50メートル6秒台の俊足を生かした走塁や小技でも魅せる。「また野球が楽しいと思えるようになった」
左翼手のレギュラーに定着した。5月末には左投げ転向後、初めて練習試合のマウンドに上がった。四球も出したが、1回を投げ切った。今月6日の公式戦でも登板し、113キロを記録した。部員約30人をまとめる主将として、たくましく成長した。
福島大会の開幕まで1カ月を切った。本格的な選手としての活動は高校で一区切りをつけるつもりだ。「どんな形でもいいから、勝利につながるプレーをする」。支えてくれた周囲への感謝を胸に、力強く左腕を振る。※平山病
正式名称は若年性一側上肢筋萎縮症。10代前半から20代前半までの主に男性に発症する。脊髄に原因があり、手や腕にかけて筋肉が萎縮する。握力が低下したり指を十分に伸ばせなくなったりする。症状は数年かけて進行し、重症の場合は手指の運動機能が失われる。