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福島県大玉村中心部にある村保育所に、大勢の子どもたちの歓声が響く。施設は村が設置し、村社会福祉協議会が運営する「公私連携型」を導入している。保育士を社協の正職員として採用し、安定した人材確保につなげている。子育て世帯から支持を集める現在の村の姿を象徴する施策の一つだ。
4月1日時点の全村民に占める14歳以下の割合は14・5%で、県平均を約4ポイント上回る。子どもをはじめとした若い世代の定着は、5年に1度の国勢調査のたびに人口が増える好循環を生んでいる。現在の住民は25年前より500人多い8900人に上る。ただ、押山利一村長は「時代ごとの課題に対応しようと取り組みを続けてきた」と一朝一夕ではなしえなかった成果だと強調。「息の長い施策の積み重ねがあったからこそ今の村が築けている」と振り返る。
村の取り組みの原点は半世紀前までさかのぼる。東北自動車道の開通を控えた昭和40年代後半ごろ、交通アクセスの向上が見込まれる一方、農業振興地域の規制により他の自治体のような企業誘致が難しいという問題に直面した。宅地造成など人口増加対策に重点を置く道を早くから選び、その考えが今も根付いているという。
2000年代に入り、少子化問題が全国的な関心事となる中、複雑化する課題を前に村独自の対応を取り続けた。子育て世帯の経済的負担が増している点を重視し、子どもの医療費や保育料の無料化など先駆的な支援策をいち早く取り入れた。保育所の待機児童が問題化した際には村外の保育施設に通わせる世帯への補助などで解消に努めた。現在は核家族化の進行に対応するため、育児世帯の相談先となる「子育て支援センター」の開設準備などを進めている。
村の直近の調査では、若い世代を含め村民の9割が「住みよい」と答えるなど柔軟な育児支援策への満足度は高い。長い取り組みで培われた評価が村内外に広がり、新たな転入や定着を生む「村民によるトップセールス」が少子化対策で重要な役割を担っている。
ただ、新たな懸念もある。人口の維持・増加を左右する村内の出生数は昨年、53人と4年前より2割近く少なくなった。減少の兆候について、村は経済情勢の悪化や婚姻数の減少といった全国的な課題が村内にも当てはまるとみている。
村が掲げる「小さくても輝く村づくり」の理念はこうした課題に柔軟・迅速に対応する際に効果を発揮している。児童・生徒の保護者らへのアンケートなどで子育てや教育に関する村民の要望などを細かく聞き取り、最適な施策に反映できるのは人口1万人未満の村ならではの強みという。
新たな施策を思案する押山村長は「国、県は方向性を示してくれるが、対応するのはあくまで地元自治体。村民が何を求めているかをつぶさに捉えることが肝要だ」と少子化時代の自治体の在り方を示している。