福島のニュース
小泉進次郎農相が米価の高騰対策として、コメの緊急輸入を「選択肢の一つ」と発言したのに対し、福島県内の生産者の間で不安が広がっている。実施された場合、備蓄米の放出も加わり、新米が出回る秋以降、市場に大量流入して価格が下落するリスクがある。農業団体関係者は農業経営の不安定化を招き、離農や生産意欲の減退につながりかねないと不安視し、政府に慎重な対応を求めている。■異例の発言
小泉農相は6日、高値が続く場合、対策に聖域はないとして緊急輸入に言及した。1993(平成5)年の冷夏の際、タイや中国などから計259万トンを輸入したが、これまで政府は輸入受け入れに慎重な姿勢を取ってきた。今回の発言は異例とも言える。
長年にわたり農政に携わってきた県内の農業団体関係者は、緊急輸入に踏み切る可能性は十分にあるとみている。政府が備蓄米の買い入れを中止したまま、放出を推進しているためだ。備蓄米の在庫の底が見え始めれば、世論の納得も得やすいと推測する。
県内JAは最低保証額設定など支援の方針を示しているが、JAと取引のない生産者には緊急輸入による供給過剰の影響は大きいとみられる。「農家のやる気をそぎ、新規就農を阻むことにつながりかねない」と不安を口にしている。■浸透する海外産
海外産米は県内で浸透しつつある。大手スーパーのヨークベニマル(本社・郡山市)によると、店頭販売した米国産カルローズ米は先週末時点で仕入れた商品が完売した。国産米と比べ安価な点が影響している。
食味はある程度の評価を得ている。JA福島さくら理事の鈴木昭栄さん(66)は4月、理事会で米国カリフォルニア産米を試食した。「古米と似て、意外と味は悪くないな」と率直に感じた。「平成の米騒動」から30年以上が経過し、品質が向上した印象という。食べた他の理事からも悪い感想は出なかった。
鈴木さんは「国産には劣るが、安価で質を保っている。一定数の消費者に受け入れられるのではないか」と焦りを募らせた。■復興に水差す
双葉郡の生産者は農業の復興に水を差しかねないと心配する。
農林業センサスによると東京電力福島第1原発事故に伴う県内の被災12市町村の農家数は原発事故発生前の水準には、程遠い状況。2010年は1万1363戸だったが、2020(令和2)年は3116戸で事故発生前の27・4%にとどまっている。
広野町のコメ農家の矢内豊さん(72)は5月までJA福島さくらで復興対策委員長を務め、原発事故被災地の農業復興に向けて尽力してきた。米価の上昇で「農家が再生産できる価格に回復し、被災地の農業の担い手が確保できるかもしれない」と一時は期待を抱いたという。しかし緊急輸入が行われれば、収益を確保できず担い手確保に影響する可能性を危惧する。「福島の復興や生産者の立場を踏まえ、緊急輸入の可否を判断してほしい」と訴える。