福島のニュース
若者や女性に「選ばれる地方」を目指す―。国や自治体の計画などで最近、多く用いられる表現だ。多様な価値観を尊重する流れの中、住む場所や結婚・出産をする、しないといった生き方を「選べる時代」になった。少子化や人口減少を巡る議論で、「選択」という二文字が注目度を増している。
未曽有の複合災害からほどなく、古里・福島で暮らし続けると宣言した少女がいた。14年が過ぎた福島の現状と未来をどう見ているのか。
〈福島に産まれて
福島で育って
福島で働いて
福島で結婚して
福島で子供を産んで
福島で子供を育てて
福島で孫を見て
福島でひ孫を見て
福島で最期を過ごす
それが私の夢なのです〉
2011(平成23)年8月、福島県で催された全国高校総合文化祭(ふくしま総文)の創作劇のせりふだ。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故が起きてから半年足らず。県土の将来を危ぶむ声がまだ多く、聞かれていた。次代を担う女子高校生がつむいだ「ふくしまからのメッセージ」は、復興へと向かう勇気を県民にもたらした。
考案者の佐藤季[みのり]さん(31)は福島大人間発達文化学類から大学院を経て、福島県の教諭となった。教員生活6年目。飯舘村の義務教育学校「いいたて希望の里学園」で教壇に立つ。
自然豊かな福島市飯野町に3姉妹の末娘として生まれ、三世代同居の家族に囲まれ育った。「3・11」は福島南高の3年になる春に起きた。県内に残るか、避難するか。県産食材をわが子に与えるか、避けるか。重い判断を迫られる大人を見ながら、大会事務局から届いた用紙に胸の内を一気に書きつづった。
初任校の桜丘小(相馬市)と飯舘の児童からは被災の影響とともに、地元への強い思いを感じる。一方、社会に出て少子化の深刻さ、働きながら子育てする大変さにも触れた。現実の課題に目が行く立場となっても、郷土愛は高校時代と変わらない。「福島に住んでくれればうれしい。外に出たとしても、古里に何らかの還元ができる人になってほしい」。音楽や対話を通して愛着と関心を育む。
核家族化などによる、地域のつながりの希薄化が少子化の一因とみている。大学院で学んだ社会教育の知識と教育現場で培った経験を生かし、将来は子どもたちがお年寄りら幅広い相手と触れ合い、成長できる施設を開くことを夢見ている。
1990年代に210万人台に達した県人口は30万人以上減った。福島県の昨年の出生数は8千人台となり、この20年で半減した。国や県、市町村は局面を変えようと手を打ち続けるが、歯止めはかからない。多くの事情が絡む問題と向き合う、ある自治体の担当者は「解決策がない」と諦めに似た苦悩を漏らす。
進学・就職で県外に出る若者からは、幅広い学びや仕事を求める声が上がる。県内で結婚を望みながらも、経済的な不安や出会いのなさに悩む男女は少なくない。出産・子育てを取り巻く環境にも課題が残る。個々の決断や行動の背景には、地域社会の在りようが横たわる。
将来の社会を支える世代が細れば、社会保障や医療といった仕組みは維持できない。福島で生きる次世代の多寡は全県民の暮らしを左右する。少子化を自分事と捉えて「選ばれる地域」を見出し、実現を目指す覚悟が老若男女を問わず、一人一人に求められている。
=第8部「困難の先に」は終わります=