【ふくしま創生 挑戦者の流儀】未来イメージング(福島県いわき市)社長・薄善行(下) 恩人から救いの手

  • [エリア] 相馬市 南相馬市

福島のニュース


大手メーカーの子会社で乳がん検査機器を開発した薄善行(70)だったが、不採算を理由に事業撤退を告げられた。
放射線を吸収して発光する物質「シンチレータ」を応用した乳がん検査機器「ペムグラフ」は、自信作だった。だが、販売価格が1億円弱と高額で、医療機関からの引き合いは少なかった。
一方で、開発に10年近くを費やしたペムグラフを簡単に手放す気にはなれず、暗中模索の日々が続いた。

◆◆◆



◆◆◆
失意のどん底にいた薄に、思いがけず救いの手が差し伸べられた。東北大発のベンチャー企業C&A(本社・仙台市)から「うちで開発を続けないか」と誘われた。C&A設立者の一人は東北大金属材料研究所教授の吉川彰。薄を医療機器開発の道に導いた恩人だった。
「シンチレータの可能性はまだまだ広げられる。残りの人生を懸けてみたい」
薄は一念発起し、40年近く勤めた大手メーカーを退社した。シンチレータ事業は2019(令和元)年8月、C&Aに譲渡された。医療機器開発の望みがつながった。第二の人生の始まりでもあった。
販売会社に委託して医療機関への営業攻勢をかけようとした。その矢先だった。新型コロナウイルスの感染が急拡大し、医療機関への訪問すら許されない状況となり、再出発の出ばなをくじかれた。
心機一転。2020年8月に社名を「未来イメージング」へと変更した。苦境続きで悶々とする中、ペムグラフの強みを見つめ直した。検査着を身に着けたまま乳がん検診ができ、乳房に痛みがないペムグラフの利点は国内にとどまらないのではないか―。
仮説は正しかった。海外に活路を求めたところ、女性が人前で肌をさらすことに抵抗感が根強いインドで引き合いがあった。同じく宗教上の理由で検査への忌避感が強いイスラム圏での需要も見込まれた。ただ、商談はシビアで、販売価格の引き下げを求められている。生産工程を見直し、試行錯誤を続けている。

◆◆◆



◆◆◆■鉗子型放射線計測装置
新たな開発、復興にも貢献へ
新たながん検査機器の開発にも着手した。手術に使う鉗[かん]子[し]の先端にシンチレータを組み込み、がんに侵されたリンパ節を調べる「鉗子型放射線計測装置」だ。リンパ節はがんの転移が起こりやすい。疑わしい部位を含めて幅広に取り除くのが外科手術の通例で、患者への負担は少なくない。
「リンパ節の切除数を少なくできれば、合併症となるリスクを減らせる。患者の負担を減らし、少しでも多くの命を救いたい」
仕組みはペムグラフと同じだ。放射線を放つ薬剤をあらかじめ静脈に注射し、がん細胞に蓄積された放射線をシンチレータで検出する。鉗子の先端に仕込むシンチレータを15ミリほどに小さくし、感度を落とさないように研究を重ねた。
通常の外科手術ではリンパ節を120~130個切除するが、この装置を使うことで20~30個に低減できるという。販売価格は手の届きやすい200万円程度に抑える計画だ。
鉗子型放射線計測装置は、浜通りの産業復興を後押しする県の補助金「地域復興実用化開発等促進事業費補助金」に採択された。開発拠点を南相馬市に置き、市との間で開発支援の連携協定を結んだ。すでに動物試験をクリアした。薬事承認を申請し臨床試験に入る。3~4年後の販売開始を目指している。計測装置を手術用ロボットに搭載する構想もある。
「長年培ってきた放射線検出技術を生かし、福島発の医療機器で復興に貢献していきたい」
がん検査機器の開発や販売を国内外で軌道に乗せ、将来的には浜通りを医療機器産業の拠点にしたい。挑戦はまだまだ続く。(敬称略)