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コメ不足に端を発する米価高騰を受け、福島県内の地域ブランド米の生産者団体が価格設定などで試行錯誤を重ねている。このうち、天栄米栽培研究会(天栄村)は今月、今年産の「天栄米」の価格について設立以来最大幅となる値上げに踏み切ることを決めた。「食味世界一」などを付加価値としながら一定の価格を維持してきたが、昨年産は一般銘柄米と価格が並び、ブランド価値が薄れかねない課題が生じたためだ。他の地域ブランド米も生産者の意欲向上などを図れるよう今年産の価格を定める方針だが、「市場の動向がここまで読みづらいのは初めてだ」との悲痛な声も上がる。
天栄米栽培研究会は今月の会合で今年秋に収穫される天栄米について、前年より2割ほど高い価格への変更を決めた。漢方を活用した土や有機肥料などにこだわった「漢方環境農法天栄米」を5キロ当たり4968円から5800円、厳選したコシヒカリ「ゴールドプレミアムライス」と甘みや粘りが強い「ゆうだい21」は4100円から5千円にそれぞれ値上げし、地元の道の駅などで販売する。2008(平成20)年の設立以降の最高価格で、斑目義雄会長は「消費者、資材高騰などのバランスを考慮しなくてはいけなかった」と苦渋の決断だった胸の内を明かした。
地域に根付いたブランド米は食味や栽培法など一定の基準を設けており、価格については一部生産団体は高品質化に要した費用分を上乗せするなど独自に定めている。天栄米は生産法や品質にこだわるだけではなく、国際大会「米・食味分析鑑定コンクール」で実績を残しながらブランド力を高める一方、価格設定に細心の注意を払い、購入層を広げてきた。
ところが、昨年は米価高騰により状況が一変した。取引先に価格を早期に知らせるために例年通り6月ごろに決めた価格と秋以降に上昇し続けた一般的な銘柄米の価格が並ぶ事態となった。本来の人気に加え、「割安」となったことで購入が殺到。販売戦略にも影響が生じた。生産地としての評価を高め、村内への誘客促進にもつなげてきたが、早々に在庫が尽きた昨年産は十分に役割を果たせなかったとの見方もある。
団体内からも「『ブランド米』としての価値が埋没してしまう」などの声が上がった。協議の末、ブランド力や生産者の営農意欲を保つための値段とすることで一致した。団体として「未知」の価格帯への設定は、地道に増やしてきた顧客の買い控えなど懸念も少なくない。斑目会長は「安心安全でおいしいコメを作る苦労が報われる形で天栄米を守りたい」としている。■若松、郡山
市場見極め価格決定へ
今年産の価格決定はまだ先となる地域ブランド米の関係団体も市場の動向に神経をとがらせている。
会津若松市の「AiZ’S―RiCE(アイヅライス)」は全国的な相場の現状から昨年産よりは価格を上げる方向になるとみている。会津地域のコメの「広告塔」としての役割も担うだけに、事務局の市は「市場価格を見極めて対応したい」と慎重な姿勢を崩さない。
郡山市の最高級ブランド米「ASAKAMAI
887」の協議会に所属するJA福島さくらの幹部は「ブランド米は手間がかかり、収量も少なめだ。価格差が埋まってしまえば、生産者を失いかねない」と課題を強調。「ブランド米の意義が問われている」とも述べ、適正価格への理解も求めた。