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福島県猪苗代町出身の世界的医学者野口英世博士の生涯と功績を、小中学生に伝える野口英世記念会の「出前授業」は今年度の実施校数が予定を含めて242校(25日時点)に達した。最も多かった昨年度に並び、最多となる見通しだ。忍耐力や強い意志を説く内容が教育旅行の事前学習などで学んだ教員の異動や口コミで支持を広げ、県内外から依頼が相次ぐ。旧千円札の顔として長く親しまれ、紙幣切り替えに伴う「再注目」も寄与した。「医聖」の志は令和の世でも受け継がれていく。
白石二小(宮城県白石市)で24日に開いた授業では、記念会参与の鍋谷正則さん(67)を講師に周辺4小学校の6年生約100人が学んだ。医師国家試験を受けるために19歳で上京する野口博士が「志を得ざれば再び此[この]地[ち]を踏まず」と生家の柱に刻んだエピソードや、黄熱病の研究に命を懸けた晩年の姿などに触れた。
野口博士は1915(大正4)年に米国から凱[がい]旋[せん]した際、母校・翁島小の後輩に「目的」「正直」「忍耐」の言葉を贈っている。鍋谷さんが「何かを成し遂げるために夢を持ち、正直に生きてほしい。忍耐強く努力するのが大切」などと語りかけると、子どもたちは真剣な表情で聞き入っていた。
白石二小は7月3、4の両日、会津地方への修学旅行で記念会が運営する野口英世記念館を訪ねる。鴫原薫校長は「目的意識を深めて会津に向かえる」と学習の成果を期待する。お礼の言葉を述べた女子児童は「夢に向かって勉強に打ち込む姿に驚いた。記念館でさらに学びたい」と意欲を口にした。
福島高校長などを務めた記念会副理事長の本間稔さん(71)は「野口博士の生涯と業績を学校での学びに生かしてほしい」と需要の高まりを歓迎する。講師陣の一人として「出前授業を会津への教育旅行の拡大や将来のファン獲得につなげたい」と意気込んでいる。■県外からも注目
出前授業は次世代育成を目的に2013(平成25)年度に始めた。依頼を受けて学芸員や元教員らスタッフを無償で派遣し、野口博士の歩みを解説する。過去の実績は【グラフ】の通り。
教育旅行での記念館の来館が年間500校前後でほぼ横ばいの中、出前授業は紙幣刷新が発表された2019年度に100校を超え、新型コロナ禍の時期も含めて右肩上がりが続く。訪問先は宮城や新潟、北関東など近県が中心だが、今年度は初めて北海道から依頼が入るなど各地に広がっている。
両津吉井小(新潟県佐渡市)は前任校でも招いた平野徹校長(51)が講義の内容にひかれ、昨年度に6年生の授業に取り入れた。平野校長は「夢や志をかなえるため、努力を重ねた博士の不屈の精神を児童に伝えたい」と狙いを明かす。
塙小(塙町)は探究心を育もうと、外部講師による授業に組み込んだ。鈴木美沙歩教頭は先行きの不透明な時代だからこそ、人生の早い段階から目標を持つ重要性は増していると指摘。「博士から学ぶべきものは多い。自分の将来を考えるために役立ててほしい」と意義を語る。