福島のニュース
東日本大震災、東京電力福島第1原発事故の発生から間もなく14年4カ月となる中で行われている参院選では、経済対策などの公約に多くの有権者の視線が注がれる一方、被災地からは本県復興に関する議論や掲げる公約の物足りなさを嘆く声が上がる。復興の関心の風化を懸念する被災者は「議論が盛り上がり、国の責任による復興が加速する選挙となってほしい」と一票を投じる先を選んでいる。
公示後初の週末を迎えた5日、中通りのある市街地で街頭演説した本県選挙区の候補者の一人は聴衆に向かい、物価高対策やコメ高騰の抑止策を声高に訴えた。ただ、10分にわたりマイクを握る中で震災、原発事故復興について具体的に言及する場面はなかった。
第1原発が立地する双葉町に戻り、町営住宅で暮らす国分信一さん(75)は復興に関する訴えが少ない現状に複雑な思いを抱く。
懸念するのは安全な暮らしの前提となる廃炉の進捗だ。使用済み核燃料の冷却停止などトラブルが相次ぐ上、溶融核燃料(デブリ)の取り出し開始も当初より3年遅れになった。「東電任せにするのではなく、今こそ国がより深く関わるべきだ」と迫り、技術開発を加速させる必要性を訴える。
政府は参院選を前に来年度からの5年間を第3期復興・創生期間と位置付け、「復興と廃炉の両立」などを掲げた改定基本方針を閣議決定した。ただ、参院選では、国の方針への提言などを公約に盛り込む政党は限られる。復興について触れていても抽象的な表現が目立つ。4日に来県した石破茂首相は除染土壌の再生利用推進などを強調したが、そうした政府の姿勢とは反対に、法律で定められた県外最終処分について触れる政党もごく一部だ。
町内の居住者は180人前後で頭打ちの状態が続く。高齢者や子育て世帯もいるが、普段の買い物や通院などの面で不便さを感じる人は少なくない。最近では国会議員が被災地に足を運び、住民の声に寄り添う機会が減ったとも映る。国分さんは「復興はまだ終わっていないのに原発事故が忘れ去られているように感じる」と風化を懸念し、国民的な議論の進展を願う。
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会津若松市に避難する大熊町の荒井覚さん(77)は各政党の政策集などの中から、避難地域の再生を掲げる公約を探すが、物価高対策に隠れており、本気度が見えてこないと感じている。
長引く避難生活で、自力で歩くのが難しくなった妻の洋子さん(76)と県営の集合住宅で暮らす。元の自宅は帰還困難区域に位置しており、「古里の除染を進め、生活基盤を充実させてほしい」と望郷の思いを抱く。除染だけでなく、気軽に利用できる病院や介護施設の整備などが進み、帰還後も安心して暮らせる環境が構築されて初めて戻れると考える。国の議論にも目を配ってきたが、解除の見通しは定まらず、やり場のない思いだけが募る。
会津若松に避難して14年目。地元で仕事や住民との関わりが定着してきたものの、古里に帰りたい気持ちは変わらない。「避難した住民の生活に寄り添った公約があるべきだ」と訴えた。