福島のニュース
外国人政策が参院選の争点の一つとなって注目されている中、海外出身者を雇用する福島県内企業は「多様な文化に対する正しい理解が広がってほしい」と選挙戦を通じた議論の深まりに期待する。人手不足を背景に、優秀な人材を集める必要性が高まっているためだ。母国を離れ、日本を選んだ外国人労働者も格差のない、暮らしやすい社会の実現を願う。
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「多文化共生の本質に目を向けてもらいたい」。福島市土湯温泉にある旅館「山水荘」で社長を務める渡辺利生さん(36)が外国人スタッフを見守る。
若い人材の確保が難しく、求人を出しても思うように集まらない。頼ったのは外国人材だった。今では全従業員85人のうち、外国出身者が1割近くを占める。
コロナ禍後の2年前から、20代の人材を受け入れ始めた。現在はインドネシア出身の技能実習生5人とネパール出身の高度専門職1人。週明けには新たにミャンマー出身の特定技能実習生2人を迎える。
日本語に不慣れなスタッフもいるが、身ぶり手ぶりを交えて親身に業務内容を伝える。それぞれ配膳や受け付け、清掃などさまざま業務を担う。近年はインバウンド(訪日客)の伸びが堅調で、英語に堪能な人材が現場を支えている。
県内で働く外国人は昨年10月末現在、1万3710人で過去最多となった。渡辺さんは「彼らがいなければ、社業は成り立たない」と真面目な仕事ぶりを評価する。
ただ、外国人政策を巡る参院選の各政党の主張はさまざま。「日本人と同等の労働者の権利保障」などとある一方、「行き過ぎた受け入れに反対」などと相反的な訴えがある。
山水荘で働くインドネシア出身のライハン・アクバルエカディティヤさん(27)は、日本での永住を目指している。しかし、外国人による犯罪が増えているなどの事実に基づかないインターネットの情報を憂う。県の統計では、県内に居住する外国人は増加している。県警によると、刑法犯認知件数に占める外国人の摘発件数の割合は昨年までの過去5年間、1%以下で推移している。昨年は認知件数8844件のうち、外国人が摘発されたのは63件だった。差別を助長するとして、「悲しいし、残念な気持ちになる」と打ち明ける。
県内に長らく暮らす外国出身者も安心して働ける社会の実現を望む。米国出身の男性で棚倉町在住の家[いえ]駒[く]璃[り]射[しゃ]音[のん]さん(41)は、昨年10月に日本国籍を取得した。今回の参院選では初めて、「日本人」として一票を投じる。来日19年目。町民とはすっかり顔なじみで、地域に解け込んできた。これまで外国語指導助手(ALT)などとして働いてきた。手取りは少なく、日本人との待遇格差を感じている。物価高も相まって生活は苦しい。参院選では「日本人と格差のない雇用環境を整備してほしい」と願う。外国出身者が日本に定着できるような政策を実現できる政党や候補者の公約に注目している。