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福島県鏡石、矢吹、玉川の3町村にまたがる阿武隈川遊水地事業を巡り、遊水地周辺の害獣・不法投棄の防止対策などによる新たな財政負担増や流域全体の連携の在り方が課題として浮上している。3町村は国が示している支援制度では、対処は難しいとみており、事業の恩恵を受ける関係自治体と打開策を協議したい考え。国に制度設計や議論の調整役を求めている。■懸念
国は2028(令和10)年度完成を目指し、広さ約350ヘクタールの遊水地を整備する。阿武隈川緊急治水対策プロジェクトの一環。予定地では、住宅約150戸の住民が転居し、農地の移転も余儀なくされる。無人化した場合、周辺地域に野生動物がすみ着き、廃棄物の不法投棄も懸念される。
遊水地内の管理の在り方については、国が関係自治体と協議している。県は国と市町村の橋渡し役を担っている。一方、周辺の管理・防犯体制は議論が深まっていないのが現状で、3町村の負担になる可能性がある。対策には人員や費用がかかり、財政に余裕のない3町村は継続的な負担増を懸念している。
玉川村の担当者は「下流域の自治体とも一緒に議論し、互恵関係を築きたい」と模索している。■苦悩
3町村は負担の分散に向け、国がリーダーシップを発揮するよう期待する。ただ国は同種の治水事業の事例を踏まえ、阿武隈川の事業で直接的な関与は避けるとみられる。
下流域のある自治体の関係者は「地元の苦渋の選択があってこその事業だ」と支援体制の構築に一定の理解を示す。しかし「国が主導している事業であり、意見を挟みづらい」との苦悩を明かす。
3町村は流域自治体の連携強化が打開の一助と考える。国が開く首長や議員を招いた視察会やパネル展を通し、下流自治体に遊水地整備予定地の住民らの苦悩などを伝えている。■協働
防災工学や社会基盤に詳しい福島大共生システム理工学類の川越清樹教授は持続的な遊水地の在り方を見据え、「流域全体の連携と協働が必要だ」と強調している。
(1)基金を創出する(2)遊水地内で自治体が共同で事業を運営する(3)民間の資本や運営力を取り入れる―といった方策を提案する。流域自治体で共同体をつくり、国が側方から支援する体制が望ましいとしている。
「気候変動などで治水の重要性が高まっている。(今回の遊水地整備事業は)重要な位置付けとなる」と指摘。今後の治水事業にとっても、流域自治体が協力するための重要な先例になるとの考えを示した。